リアス式海岸で有名な三陸海岸に面した岩手県宮古市。浄土ヶ浜を代表する数多くの観光地を有する港町に、1997年4月にオープンした『みやこシネマリーン』は、国内で初となる生活共同組合が母体となって運営する街に唯一の映画館だ。「昭和30年代の全盛期は市内に7館の映画館があったのですが…」と語ってくれた支配人の櫛桁一則氏。91年に最後の映画館が閉館され、しばらくの間、宮古市は映画館空白地帯となっていた。

その間、有志の団体が自主上映を行っていたそうだが、定期的に上映会を開催していく内に映画館を復活させて欲しいという声が次第に多くなってきたのだ。「この街の人々は小さい頃から映画に馴染んでいる方が多く、盛岡市に映画を観に行くにも片道2時間近く掛かるため、お年寄りにとっては地元で映画を観たいという思いが強くなってきたのでしょうね。それと、自主上映だと封切りよりもかなり遅れてしまうため、常設の映画館を…という気雲が高まってきたのです」今でこそ、NPO法人で地域の住民たちで映画館を立ち上げる事例は多くなってきたものの、設立当時はまだ法改正前。大きな会社が経営する劇場ではなく、“みんなの意見を出して、みんなで作って、みんなの映画館にしよう”という映画館設立運動がスタートした。ちょうど、ショッピングセンター“マリンコープDORA”新設の計画時に提案したところ、その趣旨に賛同してくれて日本初の生協が運営する映画館が誕生したのである。「生協は厚生労働省の管轄で、本来の生協は生活必需品を提供するというのが前提の施設ですから…初めての試みで、前例が無いので担当の方も戸惑われたのですが、最終的には“生活を豊かにする”という生協の基本理念に物品だけでは無く、映画という夢を提供する事で“心を豊かにする”という我々の思いが伝わって設立の運びとなりました」









行政や民間の企業に任せるのではなく、同じ思いの人々が集まって、自分たちの手で映画館を作ろうという事から『みやこシネマリーン』はスタートした。「一人では映画館を作るなんて事は難しいかも知れませんが、小さな力でも終結すれば大きな力となって、願いが実現できたのです」と、櫛桁氏は胸を張る。そう、コチラの映画館は生活協共同組合員の手によって運営されている組合員全員が出資者の映画館なのだ。「言い換えれば、この映画館の持ち主は組合員の皆さんなのです。ですから、民間企業が運営する劇場と違って利用者の声を吸い上げる事が出来るのが、強みだと思っています」コチラでは、お客様から観たい映画のアンケートを取って、上映可能な作品であれば、要望に応えるようにしているという。「ホームページやリクエストBOX以外にも窓口で直接言って行かれる方もいますよ」また、定期的に行われる“番組編成委員会”には組合員ならば誰でも参加が可能で、更に年に一回、開かれる生協の総会で映画館に関する意見や要望が出され協議される…正に組合員一人一人の声が届く映画館なのだ。「ただ、2スクリーンしかないので、全ての要望に応える事が出来ないのが悔しいのですが…それでもリクエストがあるおかげで話題作ばかりを上映するのではなく皆さんが本当に観たいという映画を上映できているのが良いと思っています」


「近隣には大手シネコンが未だに無いのですが、若い人たちは皆、バスで盛岡まで片道2時間を掛けてでも行ってしまうんですよ。大都市の感覚と違って、ここらの住人は2時間の移動時間っていうのは普通の感覚なんです(笑)。盛岡で映画を観てショッピングしてご飯を食べて帰って来る…というのが若い人たちの遊び方ですね」と笑う櫛桁氏にとって当面の課題は中高生の若者を取り込む事だ。「若い人に映画を観るクセをつけてもらわないと次につながって行かないですから」その取り組みの一貫として2006年から始めたのが“ドキュメンタリー映画祭”。年に2回3本のドキュメンタリー映画を上映し、監督によるトークショーも開催されている。「ドキュメンタリー映画って、せいぜい1日1回の自主上映。でも、ウチでは一週間ずっとその作品を掛けているわけですから観たい人は何とか都合をつけられるはずなんです。メッセージ性が強い作品でも映画館でならば気軽に来ることができる。最近、そう言って感謝されるお客様も増えてきました」毎年、春・夏・冬休みシーズン前になると近隣の学校に割引券を配布している。「学校側も我々が映画館を設立した意図を理解いただいているので、そこが営利目的の民間企業と異なり生協で運営している映画館の強みだと思います」他にも地域の人々や団体に劇場を提供するというサービスも行っており、まさに地域密着型の映画館なのだ。

また、映画館の無い山間部の市町村で、移動映画館ならぬ移動映画祭を提供している。「どうしても田舎だと映画に触れ合う機会が少ないため、たまに監督さんも同行してくれたりして映写機を持って行くのです。おかげさまで、地域の人たちも監督さんもお互いの距離が近い中で話しが出来るので、喜んでいただいてます」今では、あちこちの市町村から声が掛かり、片道車で2時間以上掛かる場所まで出張される事もしばしば。「久しぶりに映画を観たというお婆ちゃんが、“わざわざ、こんな所まで来てくれてありがとう”と頭を下げて喜んでもらえると本当に、行って良かったと思いますよ…本当は頭を下げるのは私たちの方なのですが」顔を綻ばせる櫛桁氏だが「赤字にならない限りは続けて行こうと思っています。いくらスクリーン数が右肩上がりと言われても運転出来ないお年寄りにとって映画館に行けないというのが今の日本なんです」と続ける言葉がリアルに響く。


「人口6万人規模の宮古市で映画館を運営して行くためには地域の人たちに支えてもらわないとやっていけない…組合員の皆さんと密に色々な試みを行っていきたいですね。でも一番大切なのは続けて行く事…我々は協同組合なので大きな利益は出なくても良いと思っているんです」櫛桁氏は、利益を追求するよりもギリギリでも良いから存在していく事を今、第一の目標として掲げている。「今は超低空飛行で、飛んでいる状況ですが、超低空でも飛んでいれば良いのです。この街に映画館があるというのは良いじゃないですか?宮古市の周辺で映画館が無い街はたくさんあります。そこに住んでいる人たちから映画館があるって羨ましいと言われているのですから、映画館が街の財産だと思えば多くの利益はいらないんです」映画館が無くなってから大切だった事に気づく…日本人は何度それを繰り返してきたことだろう。初心を忘れず映画館の継続に全てを注いでいる櫛桁氏の言葉が強く印象に残った。(2010年10月取材)




【座席】 『スクリーン1』85席/『スクリーン2』62席 【音響】 DS・DSR

【住所】岩手県宮古市小山田2-2-1 2016年9月25日を持ちまして閉館しましたが移動上映は継続中。


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