風光明媚な地方都市―善光寺の門前町として有名な長野市にある『長野松竹相生座/長野ロキシー』の歴史は古く、現在では国内でも数少ない木造建築の映画館である。遡ること明治30年7月8日、長野県で初めて活動写真が上映された“千歳座”は歌舞伎や新劇などの上演や政治演説会、相撲、権堂技芸の踊り披露等を行っていた芝居小屋であった。初上映作品は、リュミエール兄弟のシネマトグラフ“美人の踊”“騎兵の進軍”“パリの市街”などで、当時の市民は初めて観る動く映像に拍手喝采だったそうだ。入場料は上等席で三十銭という時代である。

明治25年に設立された“千歳座”は長野市の中心部—善光寺から程近い権堂町に位置しており、権堂商店街は庶民の生活の場として常に活気と賑わいを見せている街であった。ところが時代は演劇から映画に移っていき、遂に大正8年…現在の長野映画興行(株)の前身である(株)長野演芸館が“千歳座”を買収。館名も“相生座”に変わり、本格的な映画専門館となった。現在の『長野松竹相生座/長野ロキシー』の原点である。しかし戦後恐慌に伴う不況の嵐が吹き荒れていた当時、映画興行以外にも劇場を貸し出したり、昭和8年には長野県初のボクシング試合が行われていた。戦後、直営館ではないが松竹のメイン館として“男はつらいよ”シリーズを始め、木下恵介監督や小津安二郎監督作品といった日本映画史に残る数多くの名作を送り続けていた。昭和47年には松竹シネマエンタプライズと契約を交わし、邦画のみならず松竹配給洋画の上映も開始。昭和48年には、同経営の映画館“長野演芸館”の閉館に伴って、それまで1館の大劇場だった“相生座”を大改修して同施設内に新たに『長野ロキシー』をオープンし、2館体制で新しいスタートを切る。









そんな中でも永い歴史を持つ劇場だからこそ出来る…街の活性化のために力を注いでいるのが、隔月毎に行われている「名画特集」企画だ。平成19年より開催されている上映会は、観客から観たい映画のアンケートを取り、実現可能な範囲で要望の多かった昔の映画を大スクリーンで復活させるというもの。今でこそスクリーンで名画を上映する企画が増えているが、コチラの劇場が元祖と言っても良いだろう。「映画館の古さを活かして始めた企画ですが“この映画、昔ココで観たよ”と言って下さるお客様がいらっしゃると、やって良かった…と嬉しくなりますね」と語ってくれたのは企画・広報を担当されている田上真理マネージャー。「こうした企画というものは、個人館だからこそ出来るものだと思うのです。大切な事は、常にお客様の方を向いている事ですね」作品の選定ひとつ取っても、独りよがりをしないように心掛けている田上さんは次のように続ける。「私も映画が好きなので自分の好みを出したいと思う時があるのですが(笑)…。映画館の使命は、お客様が観たいものを上手く選別して提供していく事だと思っているので、出来るだけ客観的に選ぶ目を養っていくのが当面の課題ですね」


平成に入ってから“ハリー・ポッター”シリーズが大ヒットする等、長野市内でも観客動員数がトップクラスの映画館となった『長野松竹相生座/長野ロキシー』。アーケードから奥まった場所にある劇場の佇まいは今も昭和の雰囲気を漂わせている。入口には立ち食いそば屋があり、ここで腹ごしらえしてから…という常連さんも多いそうだ。劇場前の広場では、映画祭開催時に屋台が出たり、上映作品にちなんだイベントが開催されている。何と言っても『長野松竹相生座』と『ロキシー1』の特長は2階席があること。奥行きのある縦長の場内だけにスクリーンの全体を引いて観たいお客様には最高の座席である。


『ロキシー2』は70席ほどの小じんまりとしたミニシアターであるが客席数の割には比較的天井が高く、実は映画館に改装される前は雀荘だったというのが信じられない程だ。コチラの劇場でコメディーを観賞すると観客の笑い声が適度に反響されて客席に一体感が生まれると評判だ。
お客様の層としては女性客がメインとなっているが、長野県では観る事が出来ない単館系を上映しているだけに熱心な映画ファンも少なくない。常連の方が圧倒的に多く、スタッフの方と顔見知りになっているお客様からは“今度、この映画をやって欲しい”と東京で入手したチラシを持ってくる方もいらっしゃるとか。「ウチの劇場はスタッフとお客様の顔が近いところが良いと思っています。観終わった後“面白かったよ”と声を掛けられるお客様も多いですよ」と語る田上さん。ひとつの映画がスタッフとお客様という垣根を取り払い、映画館がコミュニケーションの場となる…なんて、何と素晴らしい事だろうか。
(2009年10月取材)






【座席】 『松竹相生座』176席/『ロキシー1』264席/『ロキシー2』76席

【住所】長野県長野市権堂町2255 【電話】 026-232-3016


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