広島駅からJR呉線に揺られること1時間足らず…瀬戸内海に面した周囲を山と海に囲まれた扇状地の港町—呉市。戦艦大和が造られた世界でも有数の軍港としてその名を轟かせた街だ。そんな呉駅から街の中心を南北に流れる堺川に沿って北へ向かって歩くこと10分足らず…本通りにぶつかる角地に、遠くからでも壁面に掛かる館名が充分に目に入る映画館『呉シネマ1・2』が、そびえ建っている。


昭和38年頃に建てられたコチラの劇場は、元々2階が“呉シネマ”1階が“呉大映”だったのを大映の倒産をキッカケに現在の興行主(株)呉興行倶楽部が引き取り2つのスクリーンを有する大劇場となった。「本当は映画だけで言うと赤字なんですよ。オーナーが経営している不動産の会社があるから何とかやっていけているようなもので…オーナーの“映画館を呉に残そう”という意志で映画館を存続させているわけなのです」と語ってくれたのは支配人の竹内誠司氏。昔から映画が好きで殆どの映画は観ているというオーナーの“映画と呉という街に対する熱い想い”によって、街に映画の灯が灯され続けているのだ。かつては数十館もの映画館が軒を連ねていた街には、同系列の映画館“呉ポポロ”とコチラの2館を残すのみとなってしまったが、そんな映画館を愛し足げく通っている地元のファンは数多い。

「何年か前にウチが劇場を畳む…という噂が出た事があって、その時は“呉ポポロを残して呉シネマを閉めるんですか?”という問い合わせがアチコチから来ましたね」と言う程、地元の慣れ親しんだ常連客にとって残された2つの映画館は大切な場所なのだ。客層としては、年輩やファミリー層が圧倒的に多く、最近のヒット作品は“男たちの大和”“海猿”だが、“千と千尋の神隠し”に至っては、呉では前例のない日曜日に来場されたお客様に、入場規制をしてお帰りいただいた程だったという。他にも“もののけ姫”や“ハリーポッター賢者の石”といった作品が続き、家族向けのアニメやファンタジーは、まだまだ強いというのが特長である。また最近では、まだ車を使わない中高生をターゲットとした“花より男子”みたいな映画も健闘しており地元の子供たちがグループで来場するといった光景も見られている。


勿論、お年寄り向きの作品は、都会の評判よりも良くらい…と竹内氏は語る。「呉の街も年齢層が高くなって高齢化が進んでいる街ですから、他所の大都市では当たらなかった…と耳にする作品でもウチではまずまず、という成績を残していますよ。シネコンと比べても、勿論絶対数としては負けているけど決して退けはとっていないと思っています」それを裏付けたのが、竹内氏がコチラの劇場に赴任して間もない頃、「当時、作品を選ぶ担当の方が60歳以上の年輩の方で、その時、私がイイと思っていた映画ではなく“長崎ぶらぶら節”をその方は選ばれたんですよね。正直“どうして?”と思ったのです。ところが、他所では観客動員数が振るわなかったこの作品…呉では、かなりお客さんが入ったんですよ(笑)。その時に“あっ、自分の観たいものと、お客さんにウケる映画は違うんだ”と実感した最初でしたね」と当時を振り返る。









よく常連のお客様から、劇場のスタッフに“この映画をやって欲しい”と注文されることもあるという。「お客様の中に映画好きの方がいらっしゃって…かなりマイナーな作品を掛けて欲しいとお願いされたりするわけですが、限られたスクリーンの中で廻さなくてはならないので、ご期待に添えられないのが悔しいですね」現在では、“呉ポポロ”と『呉シネマ』が、お客様の動向に合わせて番組を組んでおり、洋画を中心に構成していた以前に比べて、今では半分以上を邦画にしたり、ヒットしたものであればムーヴオーバー作品でプログラムを組む等、時代の流れに合わせて編成を切り替えている。エントランスから中に入るとチケット窓口と受付があり、右手奥には『シネマ2』が、左手の階段から2階へ上がると『シネマ1』がある。2階のロビーは、昔の映画館特有の果てしなく高い吹き抜けの天井が広がり、ゴシック調のデザインが老舗大劇場の風格を醸し出している。


今では珍しい2階席を有する『シネマ1』は、遮るものは何も無くスクリーンを正面に捉える事が出来きる2階席最前列も然ることながら、1階最前列もスクリーンとの間に広々としたスペース(竹内氏曰く、昔の映画館特有の無駄なスペース)があり、一番前に座ったとしても見上げる事無く観賞出来、最前列を好んで座られるお客様もいらっしゃるとか。以前と比べて、会社帰りに映画を観て行く…というお客様が減って来たという竹内氏。こうした社会人のために最終回を夕方の18時から19時の間にプログラムを調整していたのが、今では夕方の回は入らず、お客さんが空っぽのまま映写機を回した…という事が何回もあったという。「それでも常連のお客様が楽しげに次回作のチラシを手に取っているのを見ると何とかして期待に応えたい」と竹内氏は最後に語ってくれた。(2008年10月取材)






【座席】『シネマ1』400席/シネマ2』200席 【音響】DTS-ES

【住所】広島県呉市本通4-5-13 2011年4月末日を持ちまして閉館いたしました。

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