広島という街と東映映画から“仁義なき戦い”シリーズを連想される方は多いと思う。昭和40年代、広島の街を舞台にした実録ヤクザ路線は斜陽期に入っていた日本映画界に新風を巻き起こした。リアリズムを追求したゲリラ撮影で、広島の裏通り(裏社会)を赤裸々に映像に収めていた。当時の東映プログラムピクチャーを掛ける映画館も怪しげなムードを漂わせており、その危なさもまた映画館の面白さであった。広島と東映の結びつきは、“仁義なき戦い”以外にも深く、広島は東映の名誉会長・岡田茂氏の出身である事でも知られている。そんな広島市の中心部—多くの若者が行き交う最も賑やかな場所、八丁堀に東映の直営館『広島東映』と『広島ルーブル』がある。まさに東映プログラムピクチャー全盛期であった昭和31年に『広島東映』単独の映画館としてオープン。ちょうど時代劇から任侠映画に時代が移り変わりつつあった日本映画の変革期をスクリーンに投影し続けて来た老舗のロードショウ館である。

平成7年に現在の“東急ハンズ”のビルに建て替えられた事をキッカケに2館体制となり、『広島東映』は東映の邦画で『広島ルーブル』がルーブルチェーンの洋画系を上映している。1階のチケット窓口で当日券を購入して、専用のエレベーターで8階に上がると、晴れた日は明るい日差しが燦々と降り注ぐ明るいロビーが目の前に広がる。高級感漂うデザインを施されたロビーは洗練された演出が随所に散りばめられている。天井を見上げると真っ白な円柱の筒が降りて内側にはエンボス風に世界の街並が象られている。元々映画館として設計されているため天井は高く開放的だ。アイランド形式の中央受付ブースに映画関連グッズの販売は勿論、非売品の上映作品プレスシートが自由に閲覧出来るサービスも行われている。









共通のロビーから『広島東映』『広島ルーブル』各々の場内へ入ると天井が高い広々とした空間となっており、ワンスロープ式の客席であるが天井と同様にスクリーンの位置も高めに設置されており、前の人の頭が邪魔になる事は無くどこからでも観易いのが特長だ。またJBLのスピーカーを使用した設備は音の通りが素晴らしく、迫力のあるサウンドを体感する事が出来る。かつて映画産業全盛の頃、相生通りには大小合わせて10館近くの映画館が軒を連ねていた。広島は市の中心部にある既存館が頑張っている地域であるが、昨年4月に“松竹東洋座”と“広島名画座”の2館が閉館したばかりである。また最近では東映の直営館が相次いで閉館が続き、東京以外の地方都市では広島だけとなってしまった。


「はやり郊外にシネコンが出来たというのが大きな原因だと思います。ウチの劇場は女性と年輩の方がメインとなっているおかげで、車を使わなくても来られる映画館ということで重宝いただいているようです」と語る井上氏。最近のヒット作として“相棒”や“クライマーズハイ”が挙げられるように、60代以上の年輩のお客様や、近くにデパートがあるため買い物帰りの主婦層に根強い支持を得ている。車で行けるシネコンも良いが、街をブラブラ散歩しながら映画の帰りにちょっと一杯…というのも“街なか映画館”の醍醐味である。(2008年9月取材)

【座席】『広島東映』258席/広島ルーブル』178席 
【音響】『広島東映』SDDS・SRD/広島ルーブルSRD

【住所】広島県広島市中区八丁堀16-10東急ハンズ8F
※2009年11月13日をもちまして閉館いたしました。


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