日本映画最盛期であった昭和30年代から地方の映画館が年々減少している現在…東京から特急で1時間足らずにある港町“木更津”は最盛期の頃と映画館数はさほど変わっていない。映画館の利用者が地元の人よりも、むしろ県外から訪れる人が多いという不思議な現象をもたらしているのは人気シリーズ“木更津キャッツアイ”効果によるもの。

そして、その最たる場所が木更津駅から徒歩8分の距離にある老舗の映画館『木更津東映』だ。テレビ版で岡田准一演じる主人公ぶっさんが、東映任侠スポコン映画(やくざ球団)を観ていた映画館として、ファンの脳裏に深く焼き付いたレトロな外観。今では、当時の煤けた壁面はキレイに補修され、建物に掲げられていた東映のマークは外されてしまった。


隣接するレトロな銭湯や、小さなスナックが建ち並ぶ通りに面した劇場の外観は街の歴史の中に溶け込み、その場に立つと映画の世界に引き込まれてしまう。現在、木更津にある映画館は4館。その内の3館(こちらを含む“木更津富士館”“木更津ムービーランド”)は、同系列となっている。3館全てに共通しているのが、当たり前のようにある上映回の境目にある休憩時間が無いということ。つまり、1回目の上映が終わるや否や、2回目の予告編が始まってしまうのだ。そう、一度朝から上映が始まると一日が終わるまで場内は暗いままなのだ。そのため、若干の上映時間に差が生じるため、余裕を持って来場することをお薦めする。「えーっ、インタビューは苦手なんだよなぁ〜感じたことをそのまま書いちゃってよ」と苦笑する代表の林氏。あまりに古いため、はっきりとした設立日は不明という『木更津東映』の歴史は戦前の無声映画の時代にまでさかのぼる。


「昔は、徳川 夢声(昭和を代表する活弁士)も来たことがあるらしく、今でも倉庫を整理していると当時の太鼓やお囃子が残っていますから…」場内も殆ど当時のままに近い形で残されていると言われる通り、コの字型の2階席は芝居なども行っていた当時の名残りだ。桟敷席や左右の花道席がそのままの形で残っているが、残念ながら現在2階席は閉鎖中…一般の方の利用は出来ない状態となっている。場内の壁面は1階から2階まで全て、年期の入った木目となっており、場内に入るとほのかに香る古い建物特有の匂いがノスタルジックな雰囲気を醸し出している。常設の映画館となったのは昭和14年。木造二階建ての500席を有する“木更津銀映劇場”という館名から。戦後、時代劇が解禁となり任侠映画の二枚看板で隆盛を博した東映と新東宝の封切館『木更津東映』となったのは昭和33年からだ。

また、場内には“森永アイスクリーム”と書かれたテントの下に自動販売機が設置されており、これもまた、どこの劇場も売店が場内にあった時代の産物であろうか。その自動販売機の横に細長い廊下があるのだが、実はこれ、女性用トイレへの通路…コチラの劇場はトイレは場内にあるのだ。上映中もロビーに出ることがないので女性にとってはウレシイ気配りの設計となっているのが特長だ。入口横にある小さなチケット窓口…いや、ここでは昔ながらの呼び名—出札が似合う…で、チケットを購入して入口をくぐると狭いロビーに賑やかに貼られた次回作のポスターが目に飛び込んでくる。








今では珍しい薄い木製の場内扉(たまに場内でヒーターやクーラーが作動するとフワっと開いてしまうのがご愛嬌)の向こうから今上映している映画の音が漏れてくる。神経質な人には気になるかも知れないが、ロビーに響く映画の音で、映画に対する期待感が否応でも高まってくる。近所にある“木更津ムービーランド”同様にロビーにある洗面台…壁に掛けられたコップが何とも微笑ましい。その横にあるガラスケースの中にはパンフレットや関連グッズ、そしてお菓子類が陳列されている。少々高くても、映画館で買うお菓子の方が断然美味しく感じるのは何故なんだろうと思いつつ、購入したチョコレートは席に着くまで我慢する。

“東映”という館名ではあるが、東宝、松竹といった主要各社の日本映画を中心としている『木更津東映』は、地元の人々から愛されている劇場でお友達のお婆ちゃん同士や家族、カップルといった幅広い年齢層の姿が見受けられる。そして平成19年3月に日本で最後の“木更津キャッツアイ ワールドシリーズ”と前作“日本シリーズ”の上映を行い、その憂愁の美を飾ろうと全国から大勢のファンが訪れる事と予想される。“木更津キャッツアイ”はこれで最後かも知れないが、木更津の小さな映画館は、これからも素敵な日本映画を贈り続けていくに違いない。(取材:2006年12月)

【座席】 265席
【住所】 千葉県木更津市中央3-4-40


※2009年1月16日をもちまして閉館いたしました。

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