千葉県、南房総―東京湾岸に位置する木更津市。JR“木更津”駅西口を出て、そのまま真っ直ぐ富士見通りを木更津港に向かって歩く。すっかり秋から冬に季節が変わろうとしているのに、暖かい風を感じる穏やかな気候に恵まれた港町は、昭和の薫りを現代に残す建物が数多く存在する。かつては、カーフェリーが木更津ー川崎間を往復しており、港は活気づいていた。そして、時代はアクアラインの完成と共にカーフェリーも廃止され、港は以前に比べると寂しくなった印象を与える。


メイン通りと言える、商店が建ち並ぶ富士見通りも休日というのに人通りも少なく閑散としている。そんな、富士見通りの駅と港の中間あたりに『木更津ムービーランド』が建っている。邦画・洋画を問わず娯楽作品を中心にプログラムを組んでいるコチラの劇場だが、設立は昭和32年。550席の客席数を有した“エビス館”が前身。昭和40年代は“木更津日活”という館名で、後期の日活青春映画や日活ロマンポルノの上映を行っていた。現在、入り口を隠すようにポスターを掲示するパネルが設置されているのも当時の名残だろうか。かつては土曜の夜はオールナイト興行で賑わっていたコチラの劇場も、今では、春・夏・冬休み、子供向けのアニメ映画を上映する時は、地元の子供たち(中には遠く館山からわざわざ来られるお客様もいるらしい)の歓喜の声が朝早くから場内に響き渡る。



エントランス横にある小さなチケット窓口でチケットを購入して扉をくぐると、目の前に広がるタイル張りの床と壁面(昔は、どこの映画館にもあった洗面台も現役で設置されているのがウレシイ)。受付横のガラスケースにはスナック菓子が売られている。シーンと静まり返ったロビーにかすかに響く場内の音…ロビーで次回の上映まで待っているとほのかに灯油ストーブの薫りが漂ってくる。

そして、今は男子トイレしか無く客席は完全に閉鎖されている2階席へ続く階段―この2階席が使われていた頃は、まさに映画が全盛期の頃…。港町木更津も活気を帯びていた時代…場内の扉が立ち見の客で膨らむ程、満席だったのは昔の話しだ。2階席があった場内は、天井が高く広々と開放的。最近リニューアルされた、かまぼこ型のアーチを描いたヘッドレストの座席は身体を優しく包み込んでくれ、実に心地よく快適に映画を観賞出来る。上映中に場内に設置されている大型の暖房機が時折、ゴーという音を立てる…昔はこうした冷暖房の音が耳に心地よく、つまらない映画の時はこの音が子守唄替わりになって熟睡したのを思い出す。

晩秋の地方都市にある映画館が醸し出す懐かしい雰囲気に思わず顔もほころんでしまう。劇場の入り口には一匹のネコが餌を求めてニャーニャー鳴いて離れようとしない。今、このような光景が見られる映画館は全国に何軒残されているだろうか…。(取材:2006年12月)





【座席】 165席

【住所】 千葉県木更津市中央2-1-4 2007年10月9日を持ちまして閉館いたしました。

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