戦後から昭和30年代にかけて映画が庶民の娯楽として栄えた頃、映画の街として活気を帯びていた銀座、有楽町界隈には大手メジャー映画会社各社の直営館が晴海通りを中心に軒を連ねていた。映画・演劇小屋が銀座の顔であった時代…。それは1980年代の再開発と共に大きく変貌していった。当時の日劇があった場所には有楽町マリオンビルが、日比谷東宝映画街にあった大劇場は日比谷シャンテビルとして生まれ変わる。人々の娯楽が多様化し、興行界がひとつの転機を迎えた頃から銀座の風景は確実に変わってしまった。

そんな映画の街の中心部─数寄屋橋に建つニュートキョービル内に2005年4月、約二ヶ月半もの時間と5億円の改修費を投じ、新生『有楽座』がリニューアルオープンした。以前は“ニュー東宝シネマ”として親しまれて来た劇場だが設立は昭和1957年5月5日にさかのぼる。同ビル内には地下に“スキヤバシ大映”という映画館があり、1972年5月大映が撤退してからビル内の2館を“ニュー東宝シネマ1(現在の有楽座)”“ニュー東宝シネマ2”と改名。“ニュー東宝シネマ2”はB級作品やムーウ゛オーバーの邦画を上映する味のある映画館であった。1995年6月から“ニュー東宝シネマ”1館体制となり硬派なアクション系を中心としたプログラムで男性客に圧倒的な支持を受けていた。またビルの外観からは想像もつかないほど場内は広く客席数780席を有する大劇場であった。そんな長きに渡って昔から変わらぬ姿で日比谷映画街へ向かう入口を守り続けて来た劇場が開館33年来初めての大リニューアルを行ったのだ。
そして、もうひとつ忘れてはならないのが館名もリニューアルされた事…しかも、かつて日比谷映画街で日本を代表する大劇場であり東宝のチェーンマスター館として数々の大作、話題作を送り続けて来た『有楽座』の名前を冠にしたのだから往年の映画ファンは正直耳を疑ったであろう。旧有楽座は、戦前の演劇劇場から戦後は映画専門館となった客席数1572席を有する名実共に日本を代表する大劇場として昭和10年にオープン。日比谷地区再開発に伴い1984年11月に閉館されるまで“風と共に去りぬ”“アラビアのロレンス”等々、戦後のハリウッド映画と共に歩み続けた伝説的な映画館であった。更に新生『有楽座』は2004年に閉館した“日比谷映画チェーン”系列を引き継ぎ、新たに“有楽座チェーン”のチェーンマスター館としてスタートを切る事となった。
記念すべきオープニング作品は、東宝の看板番組として多大な人気を誇る“名探偵コナン水平線上の陰謀”。「現在は、本社の編成が作品を選定していますが、劇場の雰囲気に合った作品を順次ラインアップしていく予定です」と営業係長である緑川靖雄氏は語る。

「オープンしてから邦画が多いのですが、とにかく劇場の良さを幅広い年齢層の方々に知って頂く事が当面の目標ですね」という言葉通りオープン以降、邦画・洋画を問わず幅広いプログラムで構成されている。かつての旧有楽座が日本を代表する東宝の旗艦劇場であったように新『有楽座』は新しい一歩を歩み始めたばかりなのだ。1階のチケット窓口で当日の指定席券を購入してエスカレーターで3階に上がると、アールデコ調のクラシカルなエントランスが現れる。YURAKUZAと記されたガラスの自動ドアの向こうに広がる“ロマンティックマンハッタン”をデザインコンセプトとしたモダンという言葉が似合う気品あるロビー。「以前のニュー東宝シネマ時代に来られていたお客様は、まずロビーの違いに驚かれますね。でも場内に入られるともっとビックリされるはずですよ…」暖かい照明に包まれた重厚感と高級感溢れるロビーから場内に入ると眼前に広がる世界に目を疑うだろう。明るいコルトンに囲まれた場内の扉をくぐると深紅に彩られた空間が飛び込んでくる。ワインレッドのスクリーンカーテンと同様に全ての壁面をカーテンで覆い尽くした場内…今までこんなに贅沢な映画館を見た事はあるだろうか。シートの座り心地は国内最高と自負されている通り、以前は700席あった座席数を半分に減らし、ゆとりある空間を実現している。さらに最前列に座ってもスクリーンの奥行きがあるため観易い設計となっている。「多分、映画館ではこうした内装は初めてだと思いますよ。銀座という土地柄に合わせた雰囲気を醸し出し、お客様が“有楽座だから観に行く”と言って足を運んでいただければウレシイですね。」と新しい劇場のデザインに自信を持って笑顔で答える緑川氏だが、今後の目標として劇場の認知度アップという大きな課題を抱えているという。「昔からお馴染みのお客様に取って完全入替制全席指定というシステムに戸惑われていました。元々、平日は年輩のお客様が多い場所ですから便利になったシステムをよく理解して頂ける告知をしていかなくてはならないですね」と語ってくれた。


また平日の昼は年輩のお客様が多いが、夕方になると一変して会社帰りのOLが多くなるのも銀座ならでは。特にレディースデーともなると女性客でロビーは賑わう。圧倒的に女性に支持された“インタープリター”はオープン以来トップの観客動員数を記録している。夏から秋にかけて若者向けの“NANA”といった話題作を控え幅広い年齢層に劇場をアピールしていく予定だ。
新しくなった売店も、より楽しいひとときを過ごせる充実したセットメニューを取り揃えている。柔らかい照明の落ち着いたロビー…待ち時間も、いつの間にか過ぎているような落ち着いた空間となっている。壁には昔の有楽座の写真が飾られており、“映画と言えば銀座”とこだわりを持つ往年のファンは懐かしく写真を見ながら思いを馳せる。「映画館で映画を観るということは映画館に入場した時から始まっているのだと思います。入場して映画を観て家に帰るまでが映画の時間…映画が終わってロビーでくつろいで“いい劇場だな”と思ってもらえたら、こんなにウレシイことはないですね。そのためにも私たちスタッフも映画の中の一員としてお客様に満足してもらえるように心掛けています」と最後に締めくくってくれた緑川氏の言葉に力強い劇場側の信念を感じる事が出来た。(取材:2005年8月)


【座席】 400席 【音響】 SR・DTS・SRD

【住所】 東京都千代田区有楽町2-2-3 ※2015年2月27日を持ちまして閉館いたしました。

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