かつて全国に名を轟かせた大劇場─シネラマ上映館として東の“テアトル東京”に対して─大阪の梅田には“OS劇場”という映画館があった。昭和27年に“心の旅路”でオープンした劇場は昭和30〜40年代に続々と日本に入って来たハリウッドの超大作を上映する専門館として関西のみならず広島、四国、九州からも迫力ある映像を体験しようと多くの映画ファンが詰めかけた。そんな大劇場も今はOSビルに建て替えられ、歴史の片鱗は劇場跡地として路上に刻まれた上映作品のプレートだけとなってしまった。

時代は変わり、その大劇場の名を受け継いだ劇場が跡地のすぐ側に建っている。梅田の都市型ショッピングセンター“HEP NAVIO”と“HEP FIVE”の間を走る細い路地…シネマ横町という魅力的な名前の通りに面した『OS劇場/OS劇場C.A.P』だ。


きらめくネオンサインに囲まれた路地に建つ『OS劇場』は東宝系列のロードショウ館、『OS劇場C.A.P』は単館系作品のミニシアターという二つの顔を持っている映画館であり、子供からお年寄りに至るまで幅広い年齢層に支持されている劇場だ。通りに面したエントランスに赤い電飾看板が道行く人の目に飛び込みコルトンに囲まれた電飾の柱には上映中の作品や次回上映のポスター等が飾られている。ロビーへと続く階段の前には「ARS LONGA VITA BREVIS(=芸術は永く人生は短い)」という文字が刻まれている。階段を上がると赤と白に彩られた明るいロビーが広がる。リニューアルされたばかりの売店の目玉として今年の7月より開始したフリードリンクサービスがある。カウンターにドリンクサービスの機械を導入。売店でホットかアイスのカップを選び、好きなだけドリンクが飲めるという訳だ。開映までの待ち時間に1杯、映画が始まってから場内に持ち込んで映画を観ながら…などと1杯の価格で何度でも利用できるのがウレシイ。

このロビーのある2階が『OS劇場』となっており、チケットを購入して左右の扉から場内へ入るとワンスロープ式の天井の高い空間が目に飛び込んで来る。「これは何度でも来たくなる親しみが湧くようなイメージで館内の装飾を行っていまして、単に若い人やコアな映画ファンの方だけに留まらず幅広い年齢層にお越し頂けるような劇場にしたい…というコンセプトから来ているんです。」と劇場スタッフは語ってくれた。劇場のポップな色調は確かに楽しげな気持ちにさせてくれる。コチラの劇場では東宝“みゆき座”チェーンの作品を掛けているだけに女性客が多く、アクション映画よりも女性ドラマやハートウォーミング系がメインの劇場だ。また、子供たちの春・夏・冬休みシーズンにはモーニングショウとして午前中のみ子供向けのアニメの上映も行っている。






「リバイバル上映は中高年から年輩の方がメインですが、公開当時を知らないビデオでしか観た事がない若い方も着実に増えて来ているのがウレシイですね。やはりテレビ画面で観るのと感動が違いますから…」今年の秋からお客様からリクエストを募集して人気の高い作品を上映していく計画があるというので今後もスケジュールから目を離せない。「映画館のイメージは接客する人の対応で決まってしまいますよね。それは逆に気を抜けない恐い点ですね。劇場のスタッフにとっては、たった1度でもお客様に取ってはそれが全て…それが映画館のイメージになってしまうのですから接客は全てのスタッフに徹底させています。」7月に特集を組んだチャップリン映画祭の初日に会場全体が笑い、そして涙して最後には場内で拍手が起こったという。年齢が違う観客が時代を越えて歓喜する…これこそが知らない人同士が感動を共有出来る映画館の魅力なのだ。その感動を気持ち良く持ち帰ってもらうために映画館は存在し、人と人とのコミュニケーションが重要な要素なのかも知れない。(取材:2003年7月)

ロビー横の階段をさらに3階へ上がるとミニシアターの『OS劇場C.A.P』がある。コチラはスタジアム形式でコンパクトにまとまった落ち着いた雰囲気を持っており、ゆっくりと映画を楽しむには最高の環境だ。上映作品としては単館系の作品に限らず、モーニングショウでは過去の名作のリバイバル上映なども行っており、若い方から年輩の方まで年代を越えた映画ファンが集まって来る。「まだテレビが普及していなかった時代…映画って大衆娯楽だったじゃないですか。その当時、映画を数少ない娯楽として観ていた世代の方がホッとできるような空間造りを心掛けています。」という言葉通り、映画館から遠ざかっていた世代…年輩の方々がリピーターとして何度も足を運び、次は何を上映してくれるのか?という期待をかけている。ちなみにこのモーニングショウは一般1200円(当日)という低価格で利用でき、“ベルリン天使の詩”“パリ、テキサス”といったヴェンダース監督特集や“冒険者たち”“髪結いの亭主”などといった名作を次々と紹介している。






【座席】 『OS劇場』321席/『OS劇場C.A.P』137席 【音響】 SRD

【住所】 大阪府大阪市北区角田町5-1 ※2007年9月をもちまして閉館いたしました。

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