上野という街は、不思議な魅力を持っている。東京、下町のターミナル駅として早くから開発が進められ、昭和という時代を映し出していた。そんな上野の駅前に在る『上野東宝劇場/上野宝塚劇場』が設立されたのは、まさに上野が活気に満ち溢れていた昭和29年12月。東宝の直営館として数々の名作を送り続けて50年が経とうとしている。

中でも日本映画産業がピークを迎えていた昭和30年代には東宝のドル箱スターである『キングコング対ゴジラ』を代表とされる特撮シリーズに多くの観客が詰めかけた。なぜだろう…ゴジラ映画は上野という街が良く似合う。勿論、上野を舞台としている作品ではないにも関わらずだ。それは今だに上野が昔から変わらない雰囲気を持ち続けている街だからかも知れない。“アメ横”は今でも“アメ横”のまま庶民の味方だし、コチラの劇場と並ぶデパートは昭和30年の雰囲気を残す雑居ビルの面白さを体験できる場所だ。…そう、上野という街と怪獣映画は昭和という時代を平成に持ってきた共通点みたいな物があるのだろう。


それでも「実は再開発の対象にココの地区がなっているんです。もしかすると数年後にはココも消えてしまうかも知れないのです。」と語る支配人の秋葉佳弘氏。遂に再開発の波が押し寄せてきた上野…駅のホームからでも見る事ができた東宝の看板もいずれ消えてしまうのだろうか?以前は『上野宝塚劇場』で東映作品も掛けていた事もあったが、今では“日劇1”系の洋画、『上野東宝劇場』では“日劇2”系の邦画を上映している。客層としてはファミリーが中心で中でも子供向けアニメの集客は銀座・渋谷・新宿を抜いて圧倒的な数を誇っている。やはり上野は下町の住宅地に近いターミナル駅だからだろうか「中には自転車で劇場の前に乗り付けて観に来れらるお客様も結構いらっしゃいます。そういった地元のお客様も大切にしていきたいですね」夏・冬・春休みシーズンになると劇場は子供たちの賑やかな声に溢れかえる。『上野東宝劇場』には今では珍しくなった傾斜がかなりついている2階席があり2階のロビーには子供向けのゲーム機などが置いてあるのがユニーク。場内は広く天井も高いので、かなり開放的。スクリーンも大きく迫力のある音響と映像が体験できる。

売店では年末になると恒例の“東宝カレンダー”が販売されておりカレンダーだけ買い求める方も良く見受けられる(これも下町の特色だろうか)。「上野は庶民的な雰囲気を残している下町ですが、同時に博物館や美術館といったアカデミックな一面も持っている街でもあるんです。ですから街を訪れる年齢層は幅広いと思います。ただ若い方がそのまま映画館に来る…というのが少ない。これから若者をどうやって誘引していくか?が大きな課題ですね。」コチラでは毎回、スタッフがイベントを考え以前はゴジラの旧作からのポスター展を開催、かなりレアな逸品まで抽選でプレゼントするなど映画ファン心をくすぐる企画を行っている。

地下にある『上野宝塚劇場』は地下とは思えないほどワンスロープの場内は広く落ち着いたムードが漂っている。スクリーンは奥行きがあり最前列からでも苦にならない。地下にあるからだろうか音の響きも良く洋画を中心に上映しているだけに音にうるさい洋画ファンも満足できる音響作りを心がけている。




両館共にここ最近の最大のヒット作といえば“千と千尋の神隠し”、次に続くのは意外にも“クレヨンしんちゃん”という。ここから見ても上野がいかにファミリーに強いかがうかがえる。それだけに洋画においても吹き替えを望む声も高く、そういったファミリー層のニーズをいかにプログラムに取り込んで行くかというのも課題のひとつだという。子供たちがお金を握り締めてアニメの前売りを買いに来る光景が見られる映画館。「映画館に初めて友達と連れ立って映画を観に行った日の事って忘れられませんよね。ある種、自立するための冒険だと思うのです。暗い世界で知らない人と共通の体験をする…怖いイメージを持っていた人って多いと思うんです。映画館というのは単純に映画だけを観る場所ではなく人生を映し出している器みたいなものではないでしょうか。」と語る秋葉氏。そんな冒険心に溢れた子供たちの笑い声が響く劇場は永く続いて欲しいのだが「もしかすると僕が最後の支配人になるかも知れませんね(笑)。それは非常に光栄だと思っています…歴史のある映画館の最後をしっかりと看取ってあげたいです。」という秋葉氏の言葉が印象に残る。(取材:2002年12月)


【座席】 『上野東宝劇場』684席/『上野宝塚劇場』522席
【音響】 『上野東宝劇場』DSSRSRD/『上野宝塚劇場』DSSRDTSSRDSRD-EX

【住所】 東京都台東区上野公園1-51 ※2003年9月1日を持ちまして閉館いたしました。


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