銀幕という言葉がピッタリ似合う劇場がある。銀座“みゆき通り”に面した日比谷映画街の一番端に位置する劇場…東宝会館の地下に昭和32年4月14日にオープンした『みゆき座』。45年という歴史の中で数多くの名作を贈り続けたコチラの劇場は女性向けの映画を中心とした作品構成をしておりハリウッド映画だけではなくヨーロッパ、アジアと国籍を問わず良質の作品を上映している東宝洋画チェーン系列のマスター館である。地下に降りるとすぐに劇場のエントランスがあり、ホールを囲むようにしてロビーがグルリと存在している。一歩、場内に入ると劇場の大きさに圧倒される事だろう。とにかく巨大なスクリーンと落ち着いたトーンの照明に照らし出される場内は正にハリウッド・クラシックの銀幕の世界なのだ。『みゆき座』がある日比谷映画街は東宝直営の映画館や“芸術座”“東京宝塚劇場”などの劇場が建ち並ぶ映画と演劇の街として古くから有名なスポットだ。周辺がリニーアルや再開発されていく中で昔から変わらない姿で存続している貴重な劇場が『みゆき座』なのである。


女性向けの作品が中心なだけに客層は年輩の女性が多くグループで観劇される姿が良く見られる。「古い劇場ですから歴史がある事以外は、アピールできる所が多くないんですよ。」副支配人の都島信成氏は謙遜されるが歴史がある劇場だけに今では少なくなってしまった大劇場の迫力というものを満喫できる貴重な映画館だ。勿論、音響は最新の設備を導入しており大画面で思いっ切り観たいというファンには根強い定評がある。「客席が756席ありますので映画がヒットした時にはその特長が存分に発揮できますね。」その特長がフルに活用できたのが“L.A.コンフィデンシャル”だった。ここ数年で一番のヒットを記録した“L.A.コンフィデンシャル”には、公開から何週間経っても入場待ちの列は日比谷シャンテ前まで続いていた。「シャンテ前まで列が延びているのを見て帰ってしまうお客様が多いのですが、実は意外と座ってご覧になれるんですよ。それも劇場のキャパシティが大きいおかげなんですけど、場内の広さの割にはロビーが狭くて(笑)スタッフが席状況をご案内していますので諦めないでいただきたいですね。」さすがに756席を有しているだけに一度に入場出来る数も半端ではないのだ。しかも最前列に座ったとしてもスクリーンと客席の間にかなり奥行きのあるステージがあるせいか比較的苦にならない。

コチラのステージでは数々の映画監督や出演者が来場し舞台挨拶を行った。「邦画に関してはメイン館なので舞台挨拶は比較的多い方ですね。」と言われるとおり邦画の公開初日は殆ど舞台挨拶が行われている。印象的だったのは“川の流れのように”の舞台挨拶で主演の森光子を始めとする共演者が来場されたのだが、滝沢秀明 も来場されると言う事と特にその初日舞台挨拶は“母娘同伴に限り滝沢君からカーネーションをプレゼント”というイベント的な仕組で開催されたために当日の会場は女子中高校生と彼女たちの母親世代で溢れかえった。さらに舞台挨拶終了後、滝沢君は来場者全員と握手を交し、中には感動の余り泣き出す女の子さえいたという。最近は邦画も多く掛けられてはいるものの、『みゆき座』と言えば女性向けの映画館というイメージは今でも変わらない。


昭和37年4月より洋画の封切り館として移行して以来、各々の時代に合った上質の作品を提供している。公開ラインアップを見ていると当時の流行りが良く解るのも流行に敏感な女性をターゲットにしているからであろう。“禁じられた遊び”“シベールの日曜日”など子供を描いたヨーロッパ映画や“卒業”“ジョニーは戦場へ行った”などのアメリカン・ニューシネマや歴代動員記録1位の“エマニエル夫人”を筆頭に“午後の曳航”“愛の嵐”“愛のコリーダ”といった性を描いた作品など娯楽作品…いわゆるエンターテインメント性よりも感性度の高い作品を贈り続けていたという印象が強い劇場だ。「最近はそういった作品による劇場としての特色が薄くなって来ているので、やはり女性向けの良質な映画を掛けていきたいですね。」長い歴史の中で築き上げてきた『みゆき座』というブランドをこれからも変わらずに映画ファンの脳裏に刻み込んで欲しいと思う。「本当に良い作品に出会った時の感動があるから映画を観るのがやめられないんでしょうね。」副支配人が最後に語ってくれた言葉通り、常にファンは『みゆき座』にそれを求めているのだ。(2001年11月取材)

【座席】756席 【音響】SR・SRD・DTS・SRD-EX 
【住所】 東京都千代田区有楽町1-2-1
 ※2005年3月31日を持ちまして閉館いたしました

  本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C)Minatomachi Cinema Street