銀座から晴海通りを築地方面へ向かってブラブラ歩く…和光を過ぎた辺りから、ネオンきらめく街並みを抜け出し“歌舞伎座”や“新橋演舞場”が見えてくる。そう、ここは芝居の街なのだ。周囲にはオフィスビルが建ち並び、銀座の中心地の様な喧騒は無くなっている。もう少し歩くと“築地の市場”が朝から活気を見せ、新鮮な食材を求める人々で賑わう…江戸の昔から庶民の台所を支え、そしてささやかな娯楽を提供し続けてきたこの場所に『東劇』がある。平日の朝から年輩のご婦人たちやご夫婦がチケット売り場に並び開場時間を待つ光景が見られる。特徴的な3階までの長いエスカレーターを上がって行くと昔から変らない落ち着いた雰囲気の老舗の風格漂う劇場が姿を現わす。全面ガラス張りのエントランスとガラスと床に反射する天井いっぱいの照明が、まるで星空の中にいるかのような錯覚を起こさせる。正式名称“東京劇場”通称『東劇』は昭和25年12月31日に映画館としてオープンするが、前身は昭和5年3月に開業した演劇場からだ。


六代目・尾上菊五郎と十五代目・市村羽左衛門、六代目・尾上梅幸の3大役者がこけら落とし興行を飾った。歌舞伎や軽演劇が上演され、東京大空襲で焼亡した歌舞伎座が昭和26年に再建されるまでは東京の歌舞伎の中心だった。第二次世界大戦を目前とした昭和15年前後に、同劇場地階にニュース専門館“銀座ニュース劇場(291席)”、5階に“東京中央劇場(211席)”が開館する。地階のニュース専門館は、戦後“東劇地下映画劇場”に改称したのち、昭和30年12月27日には大映系の封切館“築地大映”として改めて開館している。同時期に5階には“東劇バーレスクルーム”が開かれ、ジプシーローズの出世舞台となった。これらの劇場は、昭和50年に現在の高層ビルに改築されるにあたって閉館した。

かつては『東劇』を中心としたチェーンを組んでいたが、向かいの『松竹セントラル』が閉館して以来“渋谷東急系”の作品を上映しているロードショウ専門館となった。「芝居小屋で歌舞伎を上演していた頃からの名残でしょうか、年齢層としては銀座の中でもかなり高いほうだと思いますね」と語ってくれたのは営業担当の永島聡氏。たしかに劇場内は年輩の方に親切な設計となっており客席には車イス専用スペースを設け、ロビーも全てバリアフリー設計で、段差を排しスロープにするなど誰でも快適に映画鑑賞が出来るような配慮が施されている。「近隣には“歌舞伎座”“新橋演舞場”などがありますから、この界隈は昔からそういった娯楽を楽しむ方々が集まる場所なんですよね」今までで最大のヒット作として“フラッシュ・ダンス”、“マッド・マックス”、“愛と青春の旅立ち”などを贈り続けてきたこの劇場には永い年月、培ってきた歴史の重みがある。都心にありながら下町の風情を残している築地という土地と融合した雰囲気を持つ珍しい劇場だ。地下鉄東銀座駅から徒歩5分足らずだが、むしろ銀座から時間をかけてゆっくりと散策しながら来る事をお薦めする。昨年リニューアルしたばかりの劇場のウリは何と言っても最新のイス。深々と腰を降ろせる座り心地はなかなかの物だ。


そして、特筆すべきはヴァージョン・アップした音響設備…広い場内どこの場所からでも音の反響…特にリアからの音の響きは以前と比べても素晴しく生まれ変わった。「ウチはミニシアターのように番組で個性を出せるわけではないので、せめて映画を快適に観てもらいたいという気持ちでソフト面、ハード面のサービスに力を入れていきます」永島氏の語る通り入場料金が高く感じるか安く感じるかは、どれだけ素敵な時間を過ごせたか…に依るのだ。サービスとして今年から始めた“レイトショウ割引”(連日最終回は1300円)も、もっと映画を観てもらいたいという劇場の意向だ。「試験的に始めたのですが、やはり近くがオフィス街という事もあって残業しても余裕を持って映画を観て帰る事が出来る最終回に足を運ばれる方が増えて来ましたね」たしかに8時過ぎから始まり、しかもリーズナブルな料金で映画を観る事が出来るというのはサラリーマンにとっては何よりうれしいサービスだ。映画を観た後、築地で美味しい料理を食べて帰る…ここ東銀座という場所は、映画の余韻に浸りながら家路につける穴場的スポットなのだ。(2001年3月取材)

【座席】 435席 【音響】 SRD-EXSRDDS

【住所】 東京都中央区築地4-1-1東銀座東劇ビル3階 【電話】03-3541-2711

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