銀座で交通量の多い晴海通りの地下を横切るように存在する『銀座シネパトス』。1950年代に三十間堀川を埋め立てて出来た銀座四丁目の三原橋地下街に、1967年にオープンした“銀座地球座”と、翌年にオープンした“銀座名画座”という2つの映画館が前身。1989年にヒューマックスの直営館『銀座シネパトス』という館名でリニューアル・オープン。“銀座地球座”を2つに分割して現在の3館体制をとっている。自動券売機でチケットを購入してお目当ての作品を上映している劇場へ入場する。『シネパトス1』のロビーは思ったよりも広いが、『シネパトス2・3』のロビーは猫の額か鰻の寝床。ロビーでゆったり…なんて昨今のミニシアターとは対局にあるのが潔いではないか。場内はいずれもワンスロープで、お世辞にもどの席からでもゆったり観賞が出来るとは言えない環境だったが、嬉しいのは前方列の座席に角度が付いていてリクライニング状態で観賞出来る設計となっていたところだ。日比谷線東銀座駅の近くにあり、劇場とほぼ同じ位置に線路が横切るため、電車が通過するたびにゴーッという音が聞こえるのが名物であった。それも映画館の個性なのだが、初めて来た観客は、場内に鳴り響くその音の正体が、まさか地下鉄であると分からないまま劇場を後にした。この窮屈さがたまらないと、『銀座シネパトス』は映画館ファン(映画ファンではなく)にこよなく愛されている映画館なのだ。

正直、ジャンル分けが不可能な『銀座シネパトス』、本ホームページではロードショウ館の枠に入れさせてもらったものの、来週には全館がミニシアターだったり名画座となっているかも知れないのだ。事実、取材させて頂いた翌日は『シベリア超特急2』の初日舞台挨拶を控えていながら3週間後には都内ではココだけの上映となっている『写真家の女たち』がプログラムされているのだから次回、何が起こるのか全く予測不可能な映画館なのである。ただハッキリしているのはアート系でもB級作品でも攻めのプログラムは変わらないところ。「レイトショーの番組はいつも支配人が頭を悩ませながら自分で組んでいます。何をやるのか解らないから従業員も結構、楽しみにしていますよ」と、語ってくれたのは技術スタッフの中川智志氏。ジャンルを問わない作品のラインナップを心待ちにしているファンも数多い。あえて枠に劇場を入れてしまうのではなく古今東西関係なく良質の作品を提供していこうという姿勢はオープンから守られ続けている。

上映作品は実にユニークで、メジャー作品を上映しているかと思えば、単館作品の上映を行ったり、他の劇場では既に終了している作品をムーヴオーバー上映したり…。極めつけはレイトショウで行っている名作の特集上映だったりと、4つの顔を持っている劇場なのだ。内容も日本映画もあればハリウッド娯楽作品もあり、芸術性の高いアート系の作品を上映しているかと思えば隣ではB級アクションやC級ホラーを上映していたりと、とにかく良い映画、面白い映画なら何でも掛けてしまうのだ。その後、“並木座”の閉館に伴い、日本映画の名作上映を行うようになる。2008年に1館を邦画専門の名画座とした「名画座宣言」を行い、往年の映画ファンから圧倒的な支持を受けた。最近では特集上映が多く、“森繁久彌特集”では未DVD化の“トンカツ大将”を熱い思いでスクリーンを食い入るように見つめ、“cool&wild 妖艶美 反逆のヒロイン”と銘打った梶芽衣子特集では滅多に舞台挨拶をしないと言われている本人の来場に狂喜乱舞した。


『銀座シネパトス』のある地下通りには、昭和30年代の黒沢明映画に出て来そうな雰囲気が今でも残っており、小さな小料理屋、昔ながらの喫茶店、怪しげなアダルトショップ等などが軒を連ねている。『シネパトス3』の入口横には一人用の小さな公共トイレがあったりと数メートルの間に面白い発見がいくつも出来そう。「銀座の中でもオフィス街に近いせいでしょうか、平日のお昼は結構スーツ姿のサラリーマンが目立ちますね」と、いう平日の客層もこの土地ならでは。サラリーマンがちょっと、仕事をサボッて息抜きをするのに約2時間の映画は丁度良いのかも知れない。それが、レディースデイ(水曜日)の最終日ともなると、代わって仕事帰りの女性中心となる。こちらのサービスは他にもレイトショーの特集上映の時には前に観たチケットの半券を提示すれば割引料金での鑑賞が可能だ。「レイトショウには30〜40代の男性が大半を占めていますね。中にはリピーターの方がいらっしゃって、毎回顔を出してくれていますよ」

確かに、こちらのレイトショウで行われている特集上映はユニークなものばかり。それも季節によって内容を考えており、例えば夏になると『夏は妖怪・怪談です!大映の怪談!!』と銘打って妖怪物を上映したり、夏を過ぎると『アダルトシネマ・フェスティバル』と、ピンク映画の名作選をやったり…こだわったプログラムにファンから高い評価を得ている。中でも成瀬巳喜男監督の作品を特集組んだ時は週末は満席状態だった。「一度足を運んだお客様は必ず何度も足を運んでくれる。」というのも特集上映の組み方と劇場の持つ雰囲気がピッタリとハマっているからであろうか。最後に中川氏はこう語ってくれた。「映画館で映画を観るという事はコンサートに行ったり、美術館で絵を見るのと同じ事…ひとつの芸術を鑑賞する事だと思うんです。その映画を観てどう感じるかが魅力ですね」(2001年1月取材)



【座席】『シネパトス1』200席/『シネパトス2』144席/『シネパトス3』81席
【音響】『シネパトス1・2』DS・SR /『シネパトス3』DS

【住所】東京都中央区銀座4-8-7三原橋地下 ※2013年3月31日をもって閉館となりました。

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