1960年代生まれの映画ファンにとって、「オールスターキャスト」という響きは星の輝きに似た光を放つ。だから「カメオ出演」という表現の映画宣伝文句には何のカタルシスも感じない。例え、一瞬の顔見せだとしても、あの大スターが同じ画面に映っているのだ…という事実だけで、胸が躍り動悸が高まる。そういう点において1992年に公開されたロバート・アルトマン監督の『ザ・プレイヤー』は、久しぶりに観たハリウッドスターが一堂に介した贅沢な逸品であった。時代は1990年5月に、角川書店から日本に上陸したアメリカの映画雑誌「PREMIERE」が満を辞して発刊された2年後。『ザ・プレイヤー』が公開されたのはハリウッドもニューヨーク・インディーズもアメリカ映画全般がノリにノっていた時代である。豪華なスターたちの名前にワクワクしながら銀座の「丸の内ピカデリー」の初日に並んだ。

1971年に公開された『M★A★S★H』でカンヌ国際映画祭グランプリを獲得したロバート・アルトマン監督が久しぶりにメガホンを取った。一説によると『ポパイ』の興行的な失敗からしばらく監督業から距離を置いていたアルトマン監督12年ぶりの復帰作とあって、多くの俳優たちが出演を望み、その結果オールスターキャストとなったという。ちょうど、ハリウッドの黄金期を支えていたオールドスターも現役で活躍していた時代なので、『ザ・プレイヤー』は、新旧のスターが共演しても興行的に充分に成り立つ最後の映画だったかも知れない。総勢60名のスターが実名で出演している本作の中でも最大の見せ場は、映画博物館設立の資金調達パーティーであろう。撮影が行われた当日は出演俳優に関する名前は公表しないようにと書かれたチラシがキャストや関係者に配布されたというのだから厳戒態勢はかなりのものだったであろうと推察できる。

物語は、かつて企画をボツにして逆恨みする脚本家から殺人予告の葉書が頻繁に送られてくる大手映画会社の重役グリフィンを演じるティム・ロビンスを主人公とした映画業界の内幕劇だ。いきなり冒頭で、スタジオの敷地内で繰り広げられる映画に関わる人間たちの様々なエピソードで埋め尽くされたワンカット8分にも及ぶ長回しのオープニングに圧倒される。そこには、売り込みに来る脚本家や新人俳優など悲喜交々が、小気味よく実にユーモラスに映し出される。中でも身振り手振りで自分の企画を懸命に説明する『卒業2』の続編企画を売り込みに来た脚本家のエピソードが面白かった。25年後のベンとエレンの姿…なんて、めちくちゃ興味が膨らんだ。

更にグリフィンの立場を脅かすのが、20世紀フォックスから引き抜かれて来たやり手の若手プロデューサーの存在だ。グリフィンという男は映画業界にいながら映画愛は全くの皆無で、金を払って映画館で映画を観た事など無いという人物。脅迫葉書を送っていた犯人と思われる脚本家を付けて映画館に入るのだが、そこで掛かっていた『自転車泥棒』を観たと部下に話すと、皆から驚かれるという程度の男(実際、映画を観もしないまま映画館を出ており、このニューレアリスモの名作を知らないのだ)なのだ。彼の頭にあるのは良い映画を作ることよりも自分の立場を維持して、毎日125本掛かってくる売り込み電話の本数が減らない事だけだ。これがハリウッドの映画システムなのだと『ポパイ』の失敗から実体験したアルトマン監督は言わんばかりだ。原作者のマイケル・トルキンもまた自分の脚本が映画化されない状態が6年も続き、数本の作品が保留にされたまま放っておかれていたという。

グリフィンは映画館を出てから、その脚本家を殺害してしまう。そこからのグリフィンの脇の甘い行動は「クソ映画」と謗りを受けそうな展開となるのだがこれが面白い。殺害現場に証拠を残しまくりながらも逮捕出来ない刑事たち。しかも殺した脚本家の彼女と恋仲になってしまう大胆な行動は、リアリティーよりも面白さ重視。アンハッピーエンドよりもハッピーエンド。彼が劇中で主張するヒット映画の定義「サスペンス・笑い・バイオレンス・希望・バート・ハッピーエンド」を全て盛り込んで、シニカルなエンターテイメントをアルトマン監督は作り上げてしまった。

それにしても、こうしたオールスターキャストでお遊びするお祭り騒ぎの映画をよくぞここまで一本の糸でまとめ上げたものだ。トルキンの脚本は勿論だが、アルトマン監督の演出テクニックと、これほどのスターたちを絶妙なタイミングで贅沢に登場させる心憎いエッセンスの数々は、俳優とスタッフからの信頼の上に成り立っているのだろうと感服する。少々困ったのは、本人の役で出ている俳優と劇中の役を演じている俳優が混在して、観ている方(映画の事を良く知っている人ほど)は一瞬、混乱してしまう事だ。

例えばウーピー・ゴールドバーグは刑事として出てくるのだが、直前にはバート・レイノルズやジェフ・ゴールドブラムが自身の役で登場しているので、ちょっとしたカオスが発生。まぁ、そんな事も気にならない程、話の運び方のスピード感と、どこにスターが登場するかの期待感で…観客の関心を一瞬たりとも外させない見事な話術に何度も唸ってしまった。それだけ目を凝らして観ていても残念ながら初見の時はジャック・レモンとロバート・ワグナーに気付けなかった。こういう時にスターたちの出演シーンを細かく掲載してくれるパンフレットが役に立つ。あぁ…あそこだったのかぁ…と、復習して後日「新宿ピカデリー」に行ってもう一度観直した。