1975年6月に公開された『タワーリング・インフェルノ』を観た時、パニック映画もここに極まり、これ以上のものは出来ないだろうと思った。(その半年後に『ジョーズ』が登場するのだが…)

そんな生意気な小4の僕は両親と共に札幌で一番大きな“札幌劇場”という1200席を有する映画館で、観終わって帰る間際に親を説得して一人残って立て続けに3回観た。(当時はまだレンタルビデオが無かったので、繰り返し観て記憶に残すしか方法は無かった)それから親に内緒で2回通って、そのたび3回観て、リバイバルやら二番館も含めると、映画館で24回観ていた。それどころか、テレビのゴールデン洋画劇場もCMの度にポーズボタンを押してビデオ録画して、何とか映画館に近づけようとしていたくらいだ。

そして、新宿ミラノ座閉館イベントのラインナップに『タワーリング・インフェルノ』の文字を見つけた時、あの大スクリーンで観る最後のチャンスであろうと、いてもたってもいられなくなり、結局2回観た。あえて最前列のど真ん中で視界一杯に大スクリーンをこの目に焼き付けたのである。

物語は136階建て(パンフレットによるとミニチュアでさえ33メートルあったそうだ)高層ビルの落成パーティ中に手抜き工事が原因で火災が発生。最初はボヤ程度とタカを括っていたら、あちこちの手抜き箇所から次々と出火して大惨事となり、最上階に取り残されたパーティ出席者の救出劇と消火を行う消防士の活躍が平行して描かれる。脚本を手掛けたのはパニック映画の先駆けとなった『ポセイドンアドベンチャー』のスターリング・シリファント。原作者が異なる火災を題材とした“ガラスの地獄”と“ザ・タワー”という別々の小説(前者はビル火災に挑む消防士とビルに閉じ込められた人々の群像劇、後者は火災のビルから隣のビルへ救命カゴを使って救出するまでの様子を描く)を見事にまとめ上げており、上手いのは人物設定や状況を巧みに入れ替えたりしながらひとつのシークエンスは2分前後と極めて短いところだ。これはシリファントが意図的にワンシーンの説明カットを省きまくったからだという。だから2時間45分と長尺ながらも最後まで緊張感を保ち続けられるのである。

この二つの小説を各々個別に映画化権を買っていた二大メジャー、ワーナーと20世紀フォックスが共同で製作する(話を持ち掛けたのは20世紀フォックス専属で本作のプロデューサーでもあるアーウィン・アレン)という大英断も映画史に残る快挙!と話題になった。

いわゆるグランドホテル形式のオールスターキャストの映画だけにパンフレットも殆どが出席者たちの紹介に費やされ読み物というよりスチール写真集の要素が強い。(いよいよ屋上の貯水タンクを爆破する直前の耳を塞いでいるスティーブ・マックイーンの未使用カットがカッコイイ)ウイリアム・ホールデン、フェイ・ダナウェイ、フレッド・アステアなど名だたる大スターの中でも特に印象に残るのは、ロバート・ワグナーとスーザン・フラネリー演じる人知れず社内で愛を温めていた二人のシークエンスだ。誰もいないオフィスで密会している間、火に囲まれてしまう。救援を呼ぶため果敢にも一人、火の中に飛び出して敢え無く焼け死んでしまうワグナーの献身的な愛情にも涙して(実は原作ではイヤな男で恋人を棄てて逃げようとするところを火に巻かれてしまう…これは脚本に軍配を上げたい)しまったが、煙にまかれ苦しむフラネリーの演技も素晴らしかった。(事実、ゴールデングローブ賞で助演女優賞を獲得する)

いよいよ爆薬を仕掛けにヘリに乗ったマックイーンが空から見下ろす炎に包まれたビルは、最後の戦いに挑むモンスターのようで、思わず鳥肌が立ってしまった。…というわけで、無駄な箇所がひとつもないパニック映画の名作を大劇場で最後に二回も観賞出来た幸せに感謝する。ちなみに30日夜の回は1000席満席で立ち見が出るほど。しかし、名物映画館の閉館のたびに思うのだが、この半分でもコンスタントに来場していれば、光熱費などのランニングコストを理由に大劇場が閉館する事もないのだが。