日本海に面した東北の中核市・秋田。新幹線が開通した平成9年以来、より身近な街として多くの観光客が訪れている。駅前には多くの専門店や百貨店が立ち並び、休日ともなると中高生からお年寄りまで幅広い年代が通りを行き交う。その中のひとつ…十代から二十代の若者をターゲットとしたファッションビル・秋田フォーラスの最上階に、小さな映画館『週末名画座シネマパレ』がある。オープン(当時の館名は『シネマパレ』)したのは昭和60年11月30日、まだビルの名前がパレドゥーだった時代にさかのぼる。当時は松竹と松竹富士の作品をメインとして、2館体制で邦画と洋画を上映していた。


「内装も殆ど変わらず、ずっと当時のまま31年間やって来ました」と語ってくれたのは支配人の川口豊氏。オープンして間もない正月興行で上映された“コーラスライン”は、女性を中心に大ヒットを記録した。ファッションビルに入っている映画館だから、女性向けの作品が多かったのかと思いきや「他にもヘラルドやトライスターの作品も扱っていて、当時のラインアップを見てみると“悪魔の毒々モンスター”のような結構尖った作品もやっていましたよ」という意外な答えが返ってきた。翌年以降も“犬死にせしもの”や“必殺!”シリーズなどの松竹作品から、ビルのイメージに合わせたオードリー・ヘップバーン特集など幅広いジャンルを扱っていた。平成に入ると松竹から東宝の封切り館へと転換するが、この選択が大当たりを生む事となった。“ミンボーの女”や“病院へ行こう”といったシチュエーションものに人気を博していた中、“もののけ姫”と“千と千尋の神隠し”のジブリ作品に大勢の観客が詰めかけたのだ。「当時は、まだ秋田にはシネコンが進出していなかった時代ですから独占状態だったそうです」全てが順風満帆に思えた矢先、最初の転機が訪れる。平成13年には郊外に、翌年には秋田駅の反対側に次々とシネコンが設立されたのだ。

「目と鼻の先にシネコンが出来たおかげで、上映できる作品が限られてしまったんです。もう岐路に立たされて平成16年にミニシアターに移行しました」それが川口氏がコチラに入社した2年後の事だ。ミニシアターとしては後発だったため、川口氏が最初に行ったのは、既に市内にあったミニシアター“シアタープレイタウン”への挨拶だった。「大事なのは作品が被らないようにする…という約束でした。先方はヨーロッパ系や社会派の映画が多かったので、ウチは当時流行っていた若者向けのチャラチャラした(笑)邦画をやっていましたよ」世は空前の邦画ブーム…同じファッションビルにあるミニシアターの老舗“シネクイント”の番組編成を参考にさせてもらったという。ヒット作はフェミニンな女性たちに支持を受けた“かもめ食堂”だった。ミニシアターブームに活路を見いだそうとしたものの都心と地方における動員数の差は歴然としていた。「そこそこヒットしそうな作品はシネコンで掛かって…毎日、それで人件費を掛けて上映を続けるなんて無理ですよ。更にデジタル化の波が、ブームの下火に追い打ちを掛けたんです」


コチラのユニークなところは、例えば、成瀬巳喜男とジャッキー・チェンの映画を交互にやるところだ。二本立てじゃないから興味があれば観ればイイという手軽さがウケている。「僕が映画が好きな理由は振り幅の広さです。例えば、古い邦画をやればヨーロッパ映画だってやる…そうかと思えば怪獣映画もやったり…だから本当にオールジャンル。昔やっていた松竹富士の配給作品もジャンルが広かったですから…ある意味、当時のイズムは継承しているんですよ」川口氏が作品を組む時は、必ず共通した隠れテーマがある作品を選ぶようにしている。「二本続けて観ると、あっ、こういうテーマだったのか!と、映画を多重的に楽しんでもらいたいんです。僕の自己満足かも知れないんですけど(笑)こうした裏テーマを言い当ててもらったり…とにかく純粋に映画を好きになって欲しいですね」と、川口氏は繰り返す。「バカバカしい作品だろうが高尚な作品だろうが、映画館で観るとどんな映画も輝くんですよ」以前やった由利徹主演の喜劇“006は浮気の番号”なんかは、DVD化もテレビ放送もされておらず、東京からわざわざ観に来た人もいたという。他にもレアな作品が人気を博しており、“荒ぶる魂たち”や“必殺!4”といったファンを唸らせるシビレる作品も多い。ちなみにコチラのファン投票で一番人気なのは“エグゼクティブ・デシジョン”というのが泣かせるではないか。

平成16年3月からは1館体制となり、金・土・日の週末のみの営業でフィルムで旧作上映を行う…文字通り、週末名画座となった。「正直言って、シネコンが出来た時から閉館も選択肢に入っていたんです。それから12年は抗ってきたわけですから、よくここまで持ったと思います」現在、川口氏が上映作品の選定から、映写・受付・清掃を全て一人で兼務している。これも人件費を浮かせるための策だ。年代物の映写機のメンテナンスも閉鎖したパレ2の部品をスペアにして何とか維持して来た。受付に立つ川口氏はいつも常連客に「どんな映画が観たいですか?」と声をかける。そんな人柄を慕って映画を観に来た人たちはチケットを買っても、しばらく受付でおしゃべりに興じている。あれ観た?とか、あれはどうだった?とか…次第にロビーはサロンの様相を呈して来る。「ウチの雰囲気を気に入って通ってくれるようになったお客様がいるんですよ。お目当ての映画以外の作品を観て、あっ、こんな面白い映画があったんだって。そこからウチで上映する作品を全部観てくれるようになったんです」一日に2作品、出来るだけジャンルの違う作品を交互に上映しているおかげで、せっかくだから…とついでに観たお目当てじゃない映画の方が今年一番になったりする。「そんな新しい出会いって、すごく尊い事と思うんです。だからそういう映画館を目指しているんです」


そんな『週末名画座シネマパレ』だが、実は、来年の2月26日をもって閉館する事が決定している。理由は、秋田フォーラスの老朽化による全館建て替えだ。今のところ場所を変えて営業を継続するという予定はない。「この3年間で赤字を減らせた事が良かったです。もっと集客があれば継続出来たかも知れませんけど(笑)利益が出ているわけでもないですし…この状況で今までやって来れて、自分的には良い仕事をしたかなと思っています」川口氏は、名画座になって自分のやりたい事が出来て、それをお客さんに喜んでもらえて、満足している…と、この3年を振り返る。「この3年間…たくさんの人と知り合う事が出来ました。少しずつ常連さんが増えて、皆さんからウチの番組を面白いと言っていただけるのが本当に嬉しいです。今までなら興味が無かったジャンルの映画もココで初めて観るようになったとお客様から言われると、本当に映画館冥利に尽きますよね」

12月2日からグランドフィナーレに向けて、最後のカウントダウンが始まる。ロードショー館・ミニシアター・名画座…それぞれの時代に上映された作品群の中からチョイスされた全26作品をフィルムでの特別上映を行う。“秋刀魚の味”から始まり、“哀しい気分でジョーク”や“リーサルウェポン4”など正にオールジャンル…各世代が楽しめるラインアップになっている。「31年の歴史の中で、それぞれの時代に思い入れがあるはず。最後はお客さんをいっぱい呼んで、スクリーンの前で思い出話をする、泣き笑いで終わりたいと思います」昔ココで“ポケモン”や“学校の怪談”を観た子供も今は40代…今度は自分の子供を連れて来てもらいたいと思いを述べる。「映画館はワクワクするところだと思う。やっぱり僕は映画館で映画観るのが好きですね…だから最高のエンディングにしますよ」(2016年11月取材)


【座席】 『パレ1』149席/『パレ2』99席 【音響】『パレ1』SRD

【住所】秋田県秋田市千秋久保田町4-2秋田フォーラス8F ※2017年2月26日を持ちまして閉館いたしました。

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