明治29年に「のぞきめがね」と呼ばれる活動写真の元祖が登場して、明治42年には活動写真館の"電気館"と"日本館"が設立された事から映画発祥の地とされた神戸市に残る映画街・新開地。旧湊川の川筋を埋め立てたこの土地で、かの淀川長治は少年時代に映画館を学校として人間教育を受けたと語っていた。その新開地の真ん中に名画座と成人映画館という二つの顔を持つ『cinema KOBE』がある。戦前は芝居小屋だった劇場を"新劇会館"という館名の二本立て(時には三本立)の二番館として再オープンしたのは昭和32年のこと。その後、"シネマ新劇"と館名は変わり、今でも劇場を訪れる昔からのお馴染みさんは、たまに行われる名画上映の際に「中学生の頃にココで観たわ」と懐かしむ。「以前は少し離れた場所にあったのですが、阪神淡路大震災で映画館が半壊してしまい、ちょうど建て直そうとしたところで現在のマンションに映画館を入れる復興計画が持ち上がったんです」と、語るのは支配人の木谷明博氏。再建に伴い二館体制となり、『cinema1』は洋画の専門館、成人映画館の『cinema2』は当初、邦画の専門館としてそれぞれ格安の料金で上映をしていた。現在の館名『cinema KOBE』となったのは木谷氏が支配人となる少し前の平成22年の事だ。





このように神戸未公開の作品が上映される事も増え、映画ファンも今までとは異なるラインナップにいち早く反応して、「cinema KOBEが熱い」とツィートするなど評価は高い。昨年秋にはデジタルを導入してメジャー系から単館系まで幅広いニーズに対応。勿論35mmのフィルム上映も可能なので新旧合わせた充実のラインナップが実現している。「いつの間にか終わってしまった作品を観逃したお客様にとって、ウチが受け皿になればと思います」作品の選定も出来るだけ封切りの時に自分の目で確かめて、既にレンタルされているものはDVDを借りて見てから選ぶようにしているという木谷氏。以前、日曜の夜は受付から映写まで一人でこなしていたため(映写室がある二階と行ったり来たりしていた)映画を観る時間を取れなかったがデジタル化されてから仕事に少し余裕が出来た「もう常連さんに気を使わす事は無くなりましたね」と笑う。ロードショウ館と違い、名画座やムーヴオーバー館の場合は素材が多い分、どうやって二本を組み合わせるか?送り手のセンスが問われたりする。「新しいお客様に来てもらう事を考えたら、一本は毛色の違うプラスアルファみたいな作品を選ぶようにしています。例えば"ペントハウス"の併映に敢て日本映画の"黄金を抱いて翔べ"を強奪系の作品という括りで持ってきたり…。たまにムリクリ組み合わせる事もあったりしますが(笑)。個人的には遊び心は忘れないで組み合わせを考えるようにしています」

以前はハリウッドのB級娯楽作品を中心とした2本立て2週間興行だったが、現在は単館系サスペンスやホラーもの、日本のチャンバラ映画などを交えながら一週間切り替えで上映されている。「今までと毛色の違った作品を上映しているおかげで、新しいお客さんも来てくれるようになりました」また、ここ数年で神戸の映画館事情が変化しているのも影響しているようだ。「最近、神戸でも何軒か映画館の閉館が続いて、小規模な作品を上映できる映画館が少なくなったんです。今まで大阪まで行っていた人や観るのを諦めていた人が、ココでもやってるんだ…と来てくださるので、出来るだけ拾えるものは拾って行こうと考えています」その効果が顕著に結果として表れたのが昨年のGWに上映した"007スカイフォール"と"ドリームハウス"の2本立てだった。両方とも主演がダニエル・グレイヴという括りで、007はある程度狙っていたものの"ドリームハウス"は心斎橋でしかやっていなかったので観逃した映画ファンも多く、"ドリームハウスって何や?わしゃ知らんで"という常連さんと、007のリピーターが重なって予想以上の集客が実現したのだ。「ここ2年やってきた事の集大成といったら大袈裟ですけど、あの時の光景は快感でしたね。神戸初公開ということで新規のお客様に来てもらえて。"ドリームハウス"をついでに観ようかと言う常連さんに、"こっちの方がええやんか"と喜んでもらえたのが印象に残ってます」







夕方になると壁面が全面ガラスのロビーから洩れる幻想的な灯りが通りを照らす。天井の高いエントランスは、売店兼受付を境にして『シネマ1』と『シネマ2』に分かれているため、お客様から「銭湯みたい」とよく言われるそうだ。『シネマ1』のロビーにあるオーナーがコレクションしているヴィンテージもののライフとスクリーンが陳列されている喫煙所は映画ファンならずとも思わず覗いてみたくなる一画だ。また、場内の照明も注意して見てもらえると壁面に出来た影がフィルムになっていたりと、映画への愛情があちこちに溢れている。

『シネマ2』は大蔵映画の三本立て(新作1本、再映2本)で週替り興行を行っている。「3〜4年前は最低でも日に50〜60人は来ていたそうですが、今では40人来れば良いほど、ここ数年でお客様は減りましたね」と語る木谷氏。メインの客層は常連客と近隣にあるボートピアの利用者がほとんど。朝、船券を買ってレースの結果が出るまで場内で時間をつぶす…という方が多く、ロビーでは鉛筆を片手に新聞を見入るお客様をよく見かけるという。「映画を観てくれなくてもボートピアが近くにあるのはウチとしてはかなり助かってますよ(笑)ウチは、ハッテンバではないのでゲイの方は少なく、ボートピアの利用者と、純粋に成人映画が好きなファンの方で成り立っています。特にファンの方は、プロジェクター上映が増えてきている中で、今でもフィルム上映しているため画質が良くて、落ち着いて観賞出来るのが重宝がられているようです。大蔵さんの映画って面白いですから、もう少し一般の方々に観て欲しいと思うんですが…」ロビーだけではなくトイレや場内も清掃が行き届いており、真剣に映画に向き合いたい人にとっては居心地が良く、遠方からわざわざ来られるのも理解できる。

最終回の上映後、受付に立つ木谷氏に帰りぎわのお客様が何も言わずに菓子パンやら果物をカウンターに置いていく。「支配人になりたての頃、お客様から晩ごはんどうしているの?と聞かれて、"片付けが終わってからです"と答えたら、"えらい遅いねんなぁ"と、ジャムパンと牛乳を買ってきてくれたんですよ。ビックリしたけど本当に嬉しかったなぁ」と木谷氏は顔を綻ばせる。一人で何役も兼任している水谷氏を気遣って、初めて来場されたお客様を常連さんが案内してくれる事もあるそうだ。「年輩の方が多いので、電車を乗り継いでシネコンに行ったり、DVDレンタルも会員証を作るのが面倒だから…と、時間が掛かってもウチで上映するのを待ってくれる方が多いんです。昔から新開地で映画を観ているから、週一回ここに来るとホッとする…と言ってくれるのがありがたいですね」





中には、何が上映されているか気にせず運動がてら通う事を日課としている方も。「初めて奥さんといらして、それ以降頻繁に来てくれるようになった50代のご夫婦がいたり。最盛期を知っている方々の映画に対する熱っていうのは半端じゃないですね。この熱を次の世代に期待するのは無理だと思うし、そこを目指すのは危険だと思うんですよね」現在の新開地はドヤ街的な飲み屋に集まる粋なオッチャンたちに支えられながらも、そうした風情を楽しみながらピロシキを買い食いする若い人たちが集まる新しい空気が吹き始めている。「僕もこうした下町の雰囲気がある街の空気を求めて支配人をお受けした…というのもあったんです。と、いうことは僕と同じものを求めている人も絶対にいるはず」まずは5年くらいかけて足場を固めたいという木谷氏は最後にこう続けてくれた。「20年前ミニシアターのおかげで世界の埋れた映画が紹介されて、シネコンのおかげで低迷していた日本映画が人気を吹き返した。そうやって映画を支えてくれた映画館のおかげで今があるので、これからは二番館や名画座もちょっと頑張らなければと思うんです」(2013年8月取材)

【座席】 『シネマ1』121席/『シネマ2』79席
【音響】 『シネマ1』SRD

【住所】兵庫県神戸市兵庫区新開地6-2-20
【電話】078-531-6607



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