街の中心を長良川が流れ、古くは中山道の宿場町であった風光明媚な岐阜市。駅から少し離れたところにある柳ヶ瀬にはかつて数十館もの映画館が軒を連ねる映画街として賑わっていた。しかし近郊に出来たシネコンの影響で次第に映画館の数も減少、通りを往き交う人々の姿も若者からお年寄りが目立ち始めている。

そんな柳ヶ瀬商店街の中央に位置する『ロイヤル劇場』では、時代の波に無理に逆らうのではなく、街の持っている雰囲気を上手く活用した上映スタイルを採用して脚光を浴びている。劇場のあるロイヤルビルの入口には、往年の映画スターが描かれた懐かしの手書き看板と紅白の提灯がぶら下がり、初めて目にする人々は立ち止まってカメラを構える。








奥へと続く通路には「昭和名作シネマ上映会」の文字と市川雷蔵と藤純子の迫力ある看板が掲げられ映画ファンを昭和の時代へと誘う。この懐かしい絵看板を描き上げたのは“美工社”というディスプレイ会社。「旧作上映を始めるにあたって、昔の絵看板をお願いしましたが、最初は久しぶりの依頼に躊躇されてました。それでも一番古参の職人さんが引き受けてくれて実現出来たのです」と語ってくれたのは総支配人の磯谷貴彦氏。昭和52年に設立された『ロイヤル劇場』は当初、洋画の新作を中心とした作品構成で、歴代のヒット作として“007私を愛したスパイ”や“戦国自衛隊”、“復活の日”といったタイトルが並ぶ。日本映画の斜陽が囁かれていた時代の中において300席の客席が満席となる日も多く、映画を観終わった後には商店街で食事やショッピングをする光景がよく見られた時代だ。

ところが平成に入り大型ショッピングモールの台頭とシネコンブームの到来によって商店街からも客足が遠のき、劇場も一週間の集客が100人前後にまで落ち込む事があったという。「シネコンと競い合っても仕方がない。それならば柳ヶ瀬でしか出来ない映画をやろうじゃないか…という事で始めたのが高齢者のお客様にターゲットを絞った昭和の映画の上映だったわけです。」と語ってくれたのは支配人の松川勝由紀氏。平成21年秋に“銀座の恋の物語”でスタートした「昭和名作シネマ上映会」もこれまで150本以上の名作を週替わりで上映。「最初は、これでお客さんが来てくれるのか?という不安含みのスタートだったんですけど、フタを開けてみたら最初からお客さんがたくさん見えられて、正直ホッとしました。」と笑う松川氏。最近ではしっかりと常連のお客様が付いてき始め、10枚綴り(+1枚招待券)の回数券が頻繁に売れており、中には毎週来場される熱心なファンも多い。上映作品のセレクトは総支配人の磯谷氏が中心に行っており、昔のポスター集等の書籍から目星を付けた作品の配給会社を独自で探して、中にはフィルムが映画会社に無く個人の所有物を借りてくる事もあるという。


勿論、お客様からのリクエストも参考にしているが、「海外の作品等は日本での版権が切れているものや国内にフィルムが現存しないものが多く、特に西部劇のリクエストが多いのですが…期待にお答え出来ないのが残念ですね。」一度は上映も決まっていたのに直前になって許可が降りずに中止となった事やフィルムが存在したとしても保存状態が極めて悪く、カラーが経年の影響で退色している作品や、映画が始まった途端に切れてしまった事もあった。「映写技師が一番大変で、近隣にある映画館“CINEX”と掛け持ちしているのですが、フィルムにトラブルが起こるたび、走って行ったり来たりしていますよ。」こうしたトラブルが起こってもお客さんは大らかで、むしろ昔の映画館ではフィルムが切れるなんて日常茶飯事だった事を懐かしんでいるという。一度はとうとう復旧出来なかった作品もあったというが、そういうフィルムの状態が悪い事をお客様は納得されており、帰りがけに“また来るでイイわ”と笑顔で出て行かれたそうだ。こうしたハプニングも引っくるめて映画館で映画を観る面白さがあるのだ。

映画館に上がる1階のエレベーターホールには昔、劇場で使用していた年代物の映写機が展示。思わず見入ってしまい、二つ三つエレベーターをやり過ごして、ようやく『ロイヤル劇場』のある4階へ。エレベーターの扉が開くとそこはもう昭和の映画館そのままのロビーが広がる。入り口にあるチケット窓口でお金を払い、場内に入る前に“グリコアーモンドチョコレート”の懐かしい電飾看板に誘われて、売店でお菓子とドリンクを購入する。ガラスのショーケースに並んだお菓子はコンビニでも買える市販のものと変わらないのに、映画館で買うお菓子は特別なオーラを持っている。いざ、場内に入るとビルの中にある映画館とは思えない天井の高い贅沢な作りに感動してしまう。天井が高いからスクリーンも大きく、これが昔ながらの映画館も良いところだ。客席数は当時のまま、カップホルダーの付いていないシートに郷愁を感じる。入替制ではないので途中入場も連続観賞も許されるのも昔と同じで、常連客は自分のお気に入りの席へと脇目も振らず直進する。通常2作品から4作品を特集を組んで週替り興行を行っているが、驚くのは入場料500円という料金設定。「果たして500円で採算が取れるのかという意見もありましたが、プラスまで行かなくてもトントンであれば良いのではないか、そして商店街の活性につながればという事で決断しました。」


そのリーズナブルな料金設定のおかげでリピーターが多く、成瀬巳喜男監督作“浮雲”や藤純子主演作“緋牡丹博徒”は満席になる程の盛況ぶりを見せたという。また高倉健の主演作は常に上位にランキングされるほど人気が高く、リクエストも多いそうだ。客層としては年輩の男性客がメインだが、中には「昔の映画館は観たい映画も女性独りでは怖くてなかなか入り難かったけど、ようやく観る事が出来ました」と喜ばれているご婦人もいらっしゃるそうだ。ゴールデンウィークやお盆の時期には作品に関わらず多くのお客様が来場され、その光景は正に昭和の映画館を彷彿とさせる。噂が噂を呼び、以前は週100人だった入場者数も今では500人以上に増え、わざわざ愛知県から足を運ぶ方もいるほど。二台の映写機がフル稼働で真っ白なスクリーンに時代を越えて昭和の名作を映し出す。例えフィルムが劣化して退色しようとも観客の目には昔観たままの色彩で映っているに違いない。ずっと続けて欲しいと願う観客と、映写機がもつまで上映会を続ける…という劇場の想いがデジタル化を推進する映画会社に届くことを切に願う。(2012年9月取材)





【座席】 298席 【音響】 SRD

【住所】岐阜県岐阜市日ノ出町1-20柳ヶ瀬ロイヤルビル4F 【電話】058-262-0263


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