新宿から快速で1時間足らず、池袋から急行で40分足らず。東京近郊にある川越市は古くから城下町として栄え、現在では歴史ある建造物が建ち並ぶ観光スポットとして多くの人々が訪れている。数多くの寺院や土蔵造りの町並みを歩くとタイムスリップしたかのような錯覚に陥ってしまう。鉄道が通る前…かつて街の中心だった大手町界隈には、数多くの芝居小屋や寄席、映画館等が軒を連ね参拝帰りの人々が芝居や落語などに興じていたという。ところが、鉄道が通る計画が持ち出された時に他所者が、街に入り込む事を嫌った地元商店街の代表が駅を離れた場所に建設させたため、時代と共に中心部は駅周辺に移動する事となった。そのおかげで古い町並みは地代の高騰とは無縁に守られ続け、再開発で全てを奪い去られる事なく、昔からの姿を留めることが出来たのだ。


そんな城下町の一画…川越のシンボルとも言える“時の鐘”の裏手にある路地にひっそりと昔と変わらない姿の映画館が佇んでいる。住宅街の真ん中に溶け込んでいる正に地元密着型の映画館…今では川越市内にたった1館だけ残された映画館『川越スカラ座』である。『川越スカラ座』の劇場としての歴史は古く、明治38年に創業された寄席“一力亭”がその前身。その後、明治40年に“おいで館”、大正10年に“川越演芸館”と改名され、映画館となったのは、戦前の昭和15年より…館名も“川越松竹館”(その名の通り松竹直営館)として国内外の名作を送り続けた。ロビーに飾ってある当時の写真には映画“十戒”に並ぶ中学生の姿が写し出されており、映画最盛期の熱気が伝わってくる。『川越スカラ座』となったのは昭和38年からで、この時期から洋画を中心としたプログラムで構成するようになる。しかし、昭和から平成に変わる頃から市内に7館あった映画館も年々閉館が続き、平成18年にはコチラの劇場を残すのみとなってしまった。ところが、昭和25年より劇場を任されていた前支配人・中山仁一氏が高齢のため平成19年5月に劇場を一度閉館…「川越から映画館の灯を消してはならない」と川越の若者たちを中心に構成しているNPO法人“プレイグランド”の手によって、その3ヶ月後に運営を再開する。

現在、支配人を務める西ノ谷未雪さんらスタッフが、市民に呼びかけ賛助会員を募り、更には自らの貯金を切り崩して運営資金を集めたという。「実は、私たちスタッフは誰も興行の経験が無い者ばかりで、本当の意味で最初から手探り状態で進めていました」と語ってくれたのは映写技師も担当されているアシスタントマネージャー成沢なぎさん。「映画館の運営を初めて経験して、見るもの聞くものが、それまで思い描いていたものとは違っていたので最初は戸惑いの毎日でした」と、当時を振り返る成沢さんは、夏は蒸し風呂状態・冬はすきま風が身にしみる映写室と受付を往復する1日を忙しなく繰り返している。

取材当日「まぁ、懐かしい。まだこういった映画館が残っているのね」と観光に来た夫婦が、今ではあまり見られなくなった入口前の小さなチケット窓口の前で立ち止まってスタッフに話しかけている。まだ開場前だったにも関わらず「中を見学させて欲しい…」という要望に快く対応されていたのスタッフの姿が印象に残る。受付を兼ねた小さな売店では無造作に駄菓子や川越特性の手ぬぐいを販売しているのがユニーク。壁一面には所狭しと様々なイベントの告知チラシが貼られており、訪れる人々の情報交換の場にもなっているようだ。会員の方からのプレゼント告知や寄付された映画雑誌等が並んでいるロビーは、温かみのある手作り感に溢れた心地良い空間になっている。懐かしい革張りの扉を開けて場内に入ると天井の高い開放的な空間が広がる。ワンスロープ式の座席は全席自由。前2列目にはスタッフ手作りのテーブル席が設置されている。「もっと映画館を映画を観るだけではなく社交の場として活用していただけたらと思います。家にいてもつまらないから映画館に来た…と言っていただけるとウレシイですね」と言われる成沢さんの言葉通り、コチラの劇場ではスタッフと観客がコミュニケーションを取られるイベントが多い。







クリスマスには、ケーキを用意して、スタッフでささやかなパーティーをロビーで行ったという。また、今年の8月に1周年を迎え、映画会員の皆さんを招いて劇場で報告会を兼ねたパーティーを開催したばかり。また、映画監督のトークイベントが多いのもコチラの特長のひとつ。中には座談会と化してしまう一幕もあるなど作り手と観客のコミュニケーションの場にも一役かっている。

上映作品の選定についてはスタッフ一堂でアイデアを出し合って挙げた20本前後の候補作の中から観客にアンケートを取って決定しており、皆の観たい映画を皆で決めているわけだ。「映写室からでも場内の笑い声が聞こえますから…そんな時は帰りにお客様を見送るのが楽しみです。場内から出てきたお客様が笑顔だったり、口々に“良かったね…”と言っているのを耳にすると本当に嬉しいですね」と語る成沢さん。川越に映画の灯が消えない限り、その笑顔の数は確実に多くなるに違いない。(取材:2008年9月)


【座席】 124席 【音響】 DS 【休館日】 火曜日

【住所】埼玉県川越市元町1-1-1 【電話】049-223-0733


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