古くから本の街として親しまれている神田・神保町。大小様々な種類の書籍店が建ち並ぶこの街にも近年、再開発の波が押し寄せ、裏通りにあった小さな書店や製本屋、出版社があった場所には大きなマンションが建設され、昔の姿は見る影も無くなってしまった。それでもメインストリートとなる“靖国通り”や平行して走る“すずらん通り”には他所の街には無い文化的な薫りが今でも漂っている。“すずらん通り”を横道に逸れたところに、何やら不思議な―SF映画に出てきそうな建物が佇んでいる。2007年7月にオープンした『神保町シアター』だ。集英社の土地に小学館がビルを建て、そこに映画館とお笑いの劇場が入った…と、いういかにも本の街らしい施設だ。

設立当初は通常のロードショウ作品(オープニング作品は『ポケットモンスター』だった)を中心としたプログラムを組み、夜の部に限り旧作の上映を行っていたが、今年の1月より本格的な名画座として様々な特集上映を行っている。「神保町界隈には昔はもっと映画館があったのに、“岩波ホール”さん1館だけ…というのがしばらく続いていました。




地域の活性化にも一役買いたい…という思いからココに映画の上映もできる多目的な劇場を作ろう!となったわけです」と語ってくれた支配人の大矢敏氏は2年前に閉館した“三百人劇場”で上映作品選定のプロデューサーをされていた経緯の持ち主で、コチラの作品選定も大矢氏によるもの。若者からお年寄りまで幅広い年齢層のお客様に親しまれている理由のひとつに、独自の特集の組み方にある。大矢氏がセレクトしたテーマは、ユニークなものばかり。“文芸映画特集”と銘打って、本作的な名画座としてスタートを切った中村登監督と市川崑監督の作品をずらりとラインアップ。あまり取り上げられる事の少ない作品が並んだおかげで多くのファンが連日詰めかけた。「名画座となった最初は、お客様の出足も鈍かったのですが、日に日に来場者も増えてきて…ただ、丁度“市川崑監督”特集が始まった時に、市川監督がお亡くなりになられて、急遽、追悼特集に変えざるを得なかった時は複雑な心境でしたね」と当時を振り返る。




他にも“大映の女優たち”特集では不動の人気を誇る若尾文子、京マチ子らの名作をピックアップしたり…“ALWAYS 続・三丁目の夕日”公開に合わせて評論家・川本三郎氏が選ぶ“昭和30年代ノスタルジア”と銘打った特集を組むなど、上映機会が少ない個性的な作品が並ぶ。“稲垣浩監督”特集ではオリジナル版とリメイク版両方の“無法松の一生”を上映する等、渋い組み合わせはファン感涙ものである。「中には、10人くらいしか入らなかった作品もありましたけど…でも、その作品の価値を認めてくれていらっしゃったお客様だけに、ありがたかったですね。逆に私が予想していなかった作品が満席状態になると嬉しい反面、この作品のどこに惹かれているのだろう?と疑問でいっぱいになります。この理由が分れば、上映作品のセレクトも楽になるのですが…(笑)」と、作品選定の難しさについて語る大矢氏。今のところ木下恵介監督作品・岸恵子主演の“風花(ニュープリント上映)”が一番人気の高かった作品である。また、本の街にある映画館らしく“木下恵介監督”特集時には、向かいにある“三省堂”書店が木下監督のコーナーを設ける等、映画と書籍の連動を行っている。「そこで、キネマ旬報の木下恵介追悼号のバックナンバーを販売したのですが、おかげで在庫が全て売れたらしいです」と語る大矢氏。今後は日本映画に限らず、外国映画の特集も取り入れたいという。


その第1弾として企画された“ロシア文学全集”。こうした国内外の文学特集は、本の街の特色を活かした『神保町シアター』の目玉になるかも知れない。今年から始まったサービスのポイントカード。これは、誰でも無料で映画を1本観る毎に1回スタンプが捺印される。5ポイントたまると次回観賞が無料になるというモノ。1日に4作品上映するコチラだけに朝から最終回までハシゴされるお客様も多く、更に常連のお客様も多くなったという。エントランスを入ると正面にチケットカウンターがある。向かって右側が若手芸人によるお笑いの芝居を上演している『神保町花月』、向かって左側が『神保町シアター』となっている。チケットは整理券となっているので早めに購入しておけば開場の15分前までゆっくりとしていられる。また、コチラの名物はロビーに置いてある無料の小冊子。B6サイズ12ページ前後の冊子の中には細かく特集上映の監督などを当時の状況を交えながら丁寧に紹介されており、実に読み応えがある。地下にある場内は観易いスタジアム形式となっており、何と!コチラはTHX認定劇場なのである。上映は16mmからDLP上映まで可能で、JBLのスピーカーから発せられるクリアなサウンドに感動させられる事だろう。また、珍しいのは全席にカップホルダーならぬミニテーブル(シートの肘掛けからスライドさせて広げる―よく視聴覚教室で見かけるアレである)がセットされている事。元々、映画館だけではなく多目的に使用出来る劇場として設計されていたため、映画館となった後も、座席の仕様だけは残ったのだという。上映までの待ち時間、テーブルを引き出して読書したり書き物したり…勿論、場内は飲食も可能なので本来のテーブルとして使用することも出来る。「せっかく本の街にある映画館だから文芸作品を中心とした構成を守って行きたい」という大矢氏は、初めて訪れるお客様に対しての思いをこう続けてくれた…「まだ神保町をよく知らない方が、良い街だな…って思ってもらえるとうれしいですね。ここには、まだまだ味のある古書店や喫茶店がたくさんありますから、映画を観てから街を散策して、街ごと楽しんでもらいたいです」(取材:2008年7月)






【座席】 99席 【音響】 THX

【住所】東京都千代田区神田神保町1-23神保町シアタービルB1F 【電話】03-5281-5132


  本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C) Minatomachi Cinema Street