夏は緑豊かな大自然を求めに、冬はスキーや新鮮な海の幸を楽しみに、多くの観光客が訪れる北の玄関口“札幌”駅。観光客だけではなく、近郊から仕事に通う通勤客のターミナル駅でもある。そんな様々な人々が行き交う“札幌”駅の地下街に唯一あったムーブオーバー館“テアトルポー”。ちょっと前までロードショウ公開されていた作品が、たったの150円という恐るべき低料金で観る事が出来た。雨の日の夕方なんかは、仕事帰りの人々で通路に至るまでギッシリと立ち見客でごった返していた昭和50年台。レンタルビデオも無く―そもそもビデオが一般家庭に普及していなかった頃のターミナル駅には、こうした映画館が数多く存在していた。そんな“テアトルポー”が閉館されてから数十年…“札幌”駅前には元々映画館らしい映画館は多くなかったせいか、ファンは“大通り公園”駅に映画を求めて移動していた。そんな“札幌”駅北口から歩いて5分足らずの場所に、突然小さな名画座がオープンした―その名も『蠍座』。映画館と言われなければバーと勘違いされそうなユニークな館名で、オープン以来多くの映画ファンに親しまれ続けている。「最初は、女性のお客さんから“怪しげで、行くのに躊躇した”と言われました。この館名から成人映画をやっている劇場だと思ったらしいです」と語ってくれたのは、オーナーの田中次郎氏。



昔よく通っていた新宿のミニシアターにちなんでつけたという田中氏…同じ札幌の映画館を運営している会社から独立して、個人で開業資金を集め設立したのが1996年6月1日。「映画館をやるために一番お金が掛かるのは立ち上げの時…。1〜2年辛抱すれば何とかお客さんに認知されて回転し始めますよ。おかげで、今では苦しいながらも食っていけるだけやっては行けているからね」と語る。上映形態としては古今東西の単館系からメジャー系のムーブオーバー作品を一日2〜3作品のプログラムを組まれ、年間70本前後の作品を上映ている。「基本的には、自分が銀行から借金して作り上げた映画館なんだから(笑)自分が観て“面白い!この映画を掛けたい!”と思った作品しかやらない」と豪語する田中氏。ジャンルに固執していないため、ハリウッドの超メジャー系作品と単館系作品が同じ日に上映される事は日常茶飯事…客層の7〜8割を女性で占めているせいか、女性に支持された単館系作品の人気が高い。





時には昭和初期の名作(昨年8月に上映された“これが戦意高揚映画だ!”と銘打って戦時中の日本映画を上映した時は幅広い世代の観客が多数訪れた)の上映も行う等、作品の幅の広さが訪れるファンに支持されている。田中氏は一日の番組を編成する際もあえて異なる3本を選んで上映しているという。「日本の古い映画の次にハリウッドの娯楽作、最後にフランスのアート系の作品…その方がお客さんを限定する事無く、観るか観ないかのチョイスはお客さんが選択すれば良いわけですからね」地下に降りると昭和初期のカフェのようなドア。一歩中に入ると寒い季節には暖かみのある木の温もりに囲まれたロビーが広がる。ロビーには映画館特有のポスターやポップは一切無く、“ここは本当に映画館?”と思ってしまいそうな落ち着いた雰囲気を持っている。チケットカウンターの反対側には木のカウンターといくつものテーブル席がある。コチラでは映画までの待ち時間、手作りケーキや田中氏が厳選した豆を使用したコーヒーを楽しむ事が出来る(そのままテイクアウトして場内での飲食もOK)。勿論、カフェのみでも利用できるのでお気に入りの小説片手に時間をつぶされる学生の姿もよく見かける。場内は縦に長く緩やかな段差がついており、さらにスクリーンが高い位置に設置されているおかげで前列の人の頭が気になる事はない。それでも気になる方は最前列でも充分観易いのでそちらをおススメする。
オープンして12年目を迎え、一日に10人も入らなかった時代に比べ現在では馴染みの常連さんも多数、付いてきたという。「シネコンと張り合うつもりはないから商業ベースに走るつもりは無いけど、独りよがりで楽しむ作品もダメですね。作品選びに手を抜くとお客さんは、すぐにわかるから…“最近『蠍座』は変わった”なんて言われないように自分の目で観る事は徹底していますね」と語る田中氏は、最後にこう続けてくれた。「やっぱり映画館をやるからにはお客さんの喜ぶ顔見たいからね。お金の問題じゃなく、たくさん入ってくれたらガッツポーズ取りたくなる程うれしいよね」
(取材:2007年8月)



【座席】 55席

【住所】北海道札幌市北区北9条西3タカノビルB1 ※2014年12月30日を持ちまして閉館いたしました。

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