「夜、お客さんが来ないから窓口を閉めようかと思った時に来てくださった一人のお客様のありがたさ…これだけは決して忘れてはいけないことですね。」映画館離れが進み、数多くの劇場が姿を消した時代を振り返って語る潮見洋子支配人。「どん底の時代を今、存続しているどの映画館も味わっているはずなんです。まだ小さな配給会社が無かった時代で邦画も洋画も大作ばかり…どこの劇場も同じ作品を上映して凌ぎを削っていましたから、上映したくても上映する作品が下りて来なかったんです。」と言葉通り、一時期は日活ロマンポルノも上映して危機をしのいだ事もあった。

飯田橋駅から5分ほどの場所、ちょうど神楽坂の入口に位置する『ギンレイホール』が、昭和49年に名画座としてオープンしたのは名物社長として有名だった先代から。当初、月の内3週映画が当たったら最後の1週は自分たちの掛けたい映画を上映するといったユニークな運営方針を打ちたてていた。


いわゆる最後の週の映画が本来の『ギンレイホール』の姿勢を知ってもらう意味でステイタス・シンボルとなっていたわけだ。「時代は変わってしまいましたね…今ではそんな事出来ませんよ。それだけ映画館から足が遠のいてしまっているんです」と潮見支配人は語る。「ただ映画嫌いになった訳では無い思うんです。事実、ビデオでは皆さん見られているわけですから。それは私たち興行側の責任でもあるんですよね」だからこそ、重要なのは“人の手”─真心を込めたサービスであり、コミュニケーションであるという。そんな潮見支配人の目標は先代の目指していた“サロン”の開設だという。色々な分野の人々が集まって語りあえる空間、かつてパリにあったサロンで夢多き画家や作家たちが集まり、そこからロートレックなどが生まれた…そんな場所が実現できたら何と素晴しい事だろう。そして、その実現に向けて前進して発足されたのが、『シネマクラブ』であり、業界でもかなり画期的な試み『ギンレイ・シネ・パスポート』の発行である。これはシングル(1万円)、ペア(1万8千円)、グループ(3万円)と分けられたカードは1年間フリーパスだ。

入場時にカードを機械に通すだけでOK。勿論、期間内ならば何度でも使用できる。年間50本以上の映画を上映しているのだからその全てを観ることも二本立の作品を別の日にバラして観ること、また気に入った作品を何度でも観ることだって可能なのだ。さらに会員には独自の映画情報が満載された会報誌が配布される。「とにかく映画館に足を運んでもらいたいんです。映画を作った作家もスクリーンで観る事を意識して作られているわけですから、最高の効果が発揮できて、その世界に浸らせてくれる映画館というものを思い出してもらえたら…と思っています」発足してから5年目を迎え、会員も多くなってきた『シネマクラブ』だが、若い人よりも年輩の方の会員が増えてきているという。特にペアカードにご夫婦で入会して通われるリピーターが多い。「誰もが経験ある、何気なく観た作品に心を打たれたり、年を取ってから観た映画のセリフに共感を覚えたり…決して文芸作品だから素晴しいといった偏見なくコメディでもアクションでもコレ!といった作品をピックアップして皆さんに観ていただきたいんです」

場内は前列の人の頭が気にならないワンスロープ式で平成9年にリニューアルされただけに細部にまで気を配られている。かつては映画監督の森田芳光氏がアルバイトしており場内でしゃべっているお客にはよく怒っていたという。今ではそんな事はなくなったものの映画を愛するスタッフとファンが常に良い関係を保っているのを場内から感じ取ることが出来るだろう。平日の夜は仕事帰りのOLが多く昼間は圧倒的に年輩と学生の姿が目につく。「良い作品はいつまでも古くはならず、自然と人が集まってくるんです。」という言葉通り、人気作品の場内は活気が溢れている。コチラの上映作品は2週間切り替えの二本立が基本となっており、ハリウッドメジャーからミニシアター系の作品を邦画、洋画問わず上映されている。早いものではロードショウが終了した次の日から掛けられるものあり、コチラで上映されるのを敢えて待たれているファンもいる程だ。

「ロードショウで不入りだったために打ち切られた作品をウチで拾い上げる…それは二本立だから出来ることなんですよね。片方は誰もが知っているメジャーな作品にして、もう一本にそういった作品を持って来るんです。」とは言うものの映画を選定する苦労は絶えることが無い。時期が合わずに待機している作品は多く存在しているという。

作品の選定は全て支配人が試写会へ直接赴き、そこで判断し切れない時は公開中に劇場へ足を運び観客の反応を観察して決定を下す。「作品選びは自分の責任において自分の首を賭けるつもりで…言い替えれば博打と一緒ですよ。」と笑いながら話してくれた支配人は最後に、こう付け加えてくれた。「背伸びをしないでお客様に対して気を抜かずにやっていれば、きっと成果が生まれると信じています。色々な意味で限定しないで幅広く挑戦しようと思っていますから、いつか『ギンレイホール』から何かが立ち上がってくれたら幸せですよね。」その精神は少しずつ形となって芽生え初めていることは確かだ。(取材:2001年9月)


【座席】 250席 【音響】DS

【住所】東京都新宿区神楽坂2-19 銀鈴会館 【電話】03-3269-3852

  本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C) Minatomachi Cinema Street