ゴトゴトと世田谷線が走り、京王線が交差する街─下高井戸。いつも活気溢れる商店街から少し離れた…歩いて1〜2分程の場所にココ『下高井戸シネマ』がある。昭和30年代前半に木造平屋建てでオープンした当初は“京王下高井戸東映”という東映の封切館だったが昭和55年に名画座へ転向、館名も『下高井戸京王』に変った。「当時は名画座が全盛の頃で、名画座に転向する封切館がかなりあった時代だったんです。まぁ建物もかなり老朽化してきたものですから閉館するか名画座にして再スタートをするかの決断に迫られたんですけど…名画座になってからは順調で…結果的には正解だった訳です。」と、当時を振り返って語ってくれたのは支配人でもあり経営者でもある荒河治氏。その5年後にリニューアルして現在の建物になった。

半年後に当時の経営母体だった京王が、映画興行から手を引くという事になり、昭和63年から別の企業が引き継いで、現在の『下高井戸シネマ』という館名となった。ところが平成10年、時代はまさにシネコン・ブームとミニシアター・ブームに変り、名画座が次々と閉館していた。『下高井戸シネマ』も同様に売り上げの伸び悩みから当時の経営母体が手を引くという事に…いよいよ閉館か?という時に地元の下高井戸商店街の方々から“何とか存続できないか?”という声があがり新会社を設立。3月に閉館が決まっていた所をギリギリのタイミングで4月から新生『下高井戸シネマ』として再スタートを切る。しばらくは館名も上映作品もそのままだったので気付かない方も多かったという。設立にあたり地元の名士たちが保証人として協力してくれるなど、地元から映画の灯を消してはならないという人々と映画館の熱意が劇場を存続させたのだ。

そんな新生スタートと共に始めたのが、現在3000人を越す会員を持つ【下高井戸シネマ・友の会】という1年間有効の会員システムだ。3500円の年会費さえ払えば全ての作品を1000円で観る事が出来、さらにスタンプカードにスタンプが5個集まれば招待券が1枚もらえる。しかも入会時には半年間有効の招待券2枚がもらえるというのだから数多く映画を観たいファンにとっては、ありがたいシステムだ(ちなみに継続すると招待券が3枚もらえる)。「むしろ映画館から離れてしまっていた方にもっと足を運んでもらいたい…映画館で映画を観る良さを再認識してもらいたいというのが本来の目的なんです」今では休日の朝から会員証を片手にチケット売り場に長蛇の列を作る映画ファンの姿が良く見られる。「一番、そのシステムに敏感だったのは40〜50代の主婦の方々でしたね。口コミであっという間に広まって4月中旬からスタートしたにも関わらず、その年の8月には1000人を越えてしまった程です」と、まさに映画ファンの輪が広がって行くシステムなのだ。

場内はワンスロープながらも比較的、高低差が高く段差が付いているからどこからでも観易く、イスの背もたれが身体にシックリと馴染むので二本立の時でも苦にならない。劇場が入っているマンションを建設する際に映画館が入ることを前提として造られているから音の反響も天井の高さも理想的なのだろう。初めて劇場を訪れた人からは、マンションの中の映画館とは思えないと驚きの声も聞かれる。自然光を取り入れた明るいロビーでは過去に上映されたパンフレットのバックナンバーも揃えているから是非チェックしていただきたい。同様にショーケースに陳列されているアンティークなカメラも売り物…マニアにとっては貴重な一品ばかりだ。 上映形態は大きく分けて3つ、通常上映・モーニングショー・レイトショーと各々異なった作品を上映している。邦画・洋画を問わずハリウッドメジャーからミニシアター系の作品に至るまで良質な作品を一早く安い料金で観る事が出来るというのもコチラの特長だ。


ちなみに、コチラのレディースデイは毎週火曜日となっており女性に限り1000円で鑑賞が可能(たまに水曜日と間違えて来られる方もいらっしゃるとか)。客層としても友達同士誘いあってグループで鑑賞される中・高年の女性が圧倒的に多く、そのせいか上映作品も比較的女性が観ても楽しめる作品がメインとなっているようだ(事実、最近のヒット作を見ても“タイタニック”“ポネット”という女性に人気の作品だった)。また毎年上映されている“地球交響曲─ガイアシンフォニー”は大好評のプログラムで特に今年の年末に公開される4作目は龍村仁監督から先行ロードショウの後に『下高井戸シネマ』で上映して欲しいと希望されたほど。「最初は地元に住む女性のお客様から“こういう映画があるんだけど…”と持ちかけられたんですよ。丁度、日曜日はレイトショーをやっていないので、その日ならば上映してみようといったところ大反響を呼んだもので毎年掛ける事になったわけです。」と、振り返る荒河氏の言葉に映画館というのは映画を提供する側とファンが創り上げて行くものなのだと感じさせられた。(取材:2001年8月)

【座席】 126席 【音響】 SR

【住所】東京都世田谷区松原3-27-26 【電話】03-3328-1008

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