ワンダーラスト FILTH AND WISDOM
ロンドンの片隅。恋をする。現実を知る。でも、夢を見つづける。

2008年 イギリス カラー シネマスコープサイズ 84min ヘキサゴン・ピクチャーズ配給
制作 ニコラ・ドーリング 監督、脚本、製作総指揮 マドンナ 脚本 ダン・ケイダン 編集 ラッセル・リック
撮影 ティム・モーリス=ジョーンズ コスチュームデザイナー B プロダクションデザイナー ギデオン・ポンテ
出演 ユージン・ハッツ、ホリー・ウェストン、ヴィッキー・マクルア、リチャード・E・グラント
インダー・マノチャ、エリオット・レヴィ、フランチェスカ・キングドン、クレア・ウィルキー

2009年1月 渋谷アミューズCQNほか、全国順次ロードショー!
オフィシャルサイト http://wonder-lust.jp/top.html


 四半世紀以上にわたってショウビジネスの頂点に君臨するポップスター、マドンナが、念願の映画監督デビューを果たした。世間を挑発し続ける彼女の初監督作品は、 驚くほど率直で、ささやかで、チャーミングな青春映画―マドンナ自身を投影させた3人の若者を主人公に、成功への渇望や家族との確執といった普遍的な青春の葛藤と、多民族社会や貧困問題といった今日的なテーマを鮮やかに描き出している。本作は、気鋭作家によるインディペンデント作品が集うベルリン国際映画祭パノラマ部門で初披露され、舌鋒鋭い批評家たちから喝采を受けた。「ただの映画監督としてデビューしたかった」というマドンナの夢がまたひとつ、実現したのだ。主人公のAKを演じるのは、NYの音楽シーンでカリスマ的人気を誇るウクライナ出身のユージン・ハッツ。そして、駆け出しの頃のマドンナを彷彿とさせる2人の女性をみずみずしく演じるのは、新進女優のホリー・ウェストンとヴィッキー・マクルア。そして、ロバート・アルトマンやマーティン・スコセッシ作品などで知られる名優リチャード・E・グラントが、若者たちに人生の知恵を授ける役どころで圧倒的な存在感を見せつける。ファッションブランドH&MのCMをマドンナが演出したことがきっかけで生まれた本作は、当初は短編として企画されたが、次第にロンドンで暮らす登場人物たちのストーリーが膨らんでいき、長編として完成した。脚本は、夫のガイ・リッチー監督作品を支えてきた新鋭ダン・ケイダンとともにマドンナ本人が執筆。H&MのCMや「レイ・オブ・ライト」などのPVでマドンナと共同作業を重ねてきたニコラ・ドーリングが製作をつとめている。その他、撮影にビョークのPVや『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』などを手掛けるティム・モーリス=ジョーンズなど、ジャンルを越えて活躍するトップクリエイターたちが集結した。本作において「自分がこれまでの人生で愛し、大切にしてきたもの……文学、音楽、ダンス、すべての要素を表現することができた」とマドンナは語っている。


※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
 ウクライナ移民のAK(ユージン・ハッツ)の夢は、ミュージシャンとして成功することだ。ジプシーパンクバンド“ゴーゴル・ボルデロ”のフロントマンであり、詩人であり、哲学者でもある彼は、あくまでお金を稼ぐ手段としてSMの調教師をして生計を立てている。ルームメイトのひとりで、AKが密かに恋心を寄せるホリー(ホリー・ウェストン)は、長年バレエに打ち込んできたが、ロイヤル・バレエ団で踊る日はやって来そうにない。家賃を払えなくなった彼女は、AKの提案により、ストリップクラブのポールダンサーのオーディションを受ける。渋々飛び込んだホリーだったが、先輩ダンサーのフランシーヌの指導のもとでポールダンスの練習に没頭していく。もうひとりのルームメイトのジュリエット(ヴィッキー・マクルア)は、アフリカに渡って恵まれない子供たちを助けることを夢見ている。しかし現実は、近所の薬局のカウンターで働きながら募金活動を行う日々。彼女は時々棚から薬を盗み、旅立つ日に備えている。そんな3人の若者たちの階下に住む目の不自由なフリン教授(リチャード・E・グラント)はかつて作家、詩人として名声を得ていたが、視力を失って以来、創作意欲も失い、世捨て人のような生活をおくっていた。彼のために買い物をして小銭を稼いでいるAKは、ある日、教授の本棚に『ワンダーラスト・キング』と題された彼の著書を見つける。“究極の美女を探し求めて世界中を旅する欲望の王…”。その言葉に触発されたAKは、フリン教授を絶望から救い出し、また彼の才能を音楽を通して伝えようと試みる。


 やるじゃん!マドンナ!映画が終わってエンドロールが流れる中、間違いなく興奮している自分がいた。近年まれに見る予告編通りの感動を得られる作品である。今まで、マドンナの映画と言えばことごとく外したモノが多く(『エビータ』は大好きな映画で悪くなかったと思うのだが興行的には失敗した)正直、予告編ほどの期待を得られないのを覚悟で劇場に足を運んだのだが…。イギリスに住む様々な世代と国籍を持つ複数の人間たちが織りなす群像劇は、ストーリー的にも視覚的にも最初から最後まで余すとこなく楽しめた。こうした群像劇は、今までもたくさん作られて来たが、マドンナの初監督作は、単なる人間描写にアーティストらしいエッヂを効かせた映像エッセンスを巧みに散りばめた真新しいものになっている。主軸となる人物はいずれも、夢を持ちながらも上に上がる事が出来ずに底辺であがいているルームシェアする男女3人の若者たち。ウクライナからの移民でロックバンドのボーカルをやる傍ら生計のためにSM調教師のバイトをしている男AKがストーリーテラーとなり、彼の語りが要所要所に挿入され進行していく。AKを演じるのは、マドンナが惚れ込み、出演を依頼したジプシーロックバンドのボーカルを務めるユージン・ハッツ。彼を起用出来たのが、本作を成功へと導いた要因と言っても良いだろう。時には、スクリーンのこちら側にいる観客に向かって語りかける際に発せられるウクライナ訛りの不思議な発音の言葉に、いつの間にか観客は、どっぷりと引きずり込まれてしまう。
 彼の語りにも出てくるが、本作でマドンナは徹底して人間の二面性を描いている。AKとルームシェアする二人の女性たちもそうなのだが、本作に登場する全ての人間が持つ公に出来ないもう一人の自分…。アフリカ支援に没頭して薬局で真面目に働き募金活動を行いながら、その裏で店の薬を盗み資金を貯めているジュリエットの矛盾した二面性が顕著な例だ。彼女が働く薬局の経営者は、妻子がありながら密かに彼女を想い、彼女の脱いだコートの香りをむさぼっている(これも二面性)。強く印象に残るシーンがある。経営者の妻が子供の事でヒステリックになり泣き叫ぶ姿と夫が従業員のコートの匂いをむさぼる姿が交互に映し出されるところだ。残酷ではあるが、本作全編を通じて、繰り返し主張されているのは“矛盾”だ。その“矛盾”を埋めるために大義名分の“言い訳”が存在し、やがて“混乱=カオス”が訪れる。どんな立場の人間でも“混乱”に直面するとたちまち脆さが露呈する。ここで描かれている事例は、きっと誰もが思い当たる節があり、ドキッとさせられたのではないだろうか?ロイヤルバレエ団で踊る日を夢見ながら日銭のために自分に言い訳をしながらストリップバーで働くもう一人のルームメイト・ホリーも、AKの元にやってくる奇妙な性癖を持つ男たちも、根本的には同じだ。どこかで疚しさを感じていながら止める事が出来ない。ストリップバーで裸になる事を悩むホリーに盲目の詩人が言う「誰も強要しているわけじゃないから、君が止める決心をすれば済むだけ」という至極簡単なアドバイスに胸を打たれる。観終わった後、国籍を越えて共感させられる映画を作り上げたマドンナに拍手を送りたくなった。

「ナイフのジャムを舐める者は舌も切る」事ある毎にウクライナの格言を語るAK。ルームメイトは辟易していたが、このセリフには“ナルホドー”と唸ってしまった。

 

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