ノーカントリー NO COUNTRY FOR OLD MAN
世の中は計算違いで回る。

2007年 アメリカ カラー スコープサイズ 122min パラマウント、ショウゲート配給
製作 スコット・ルーディン 製作、監督、脚本 ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
撮影 ロジャー・ディーキンス 音楽 カーター・バーウェル 美術 ジェス・ゴンコール
編集 ロデリック・ジェインズ 衣装 メアリー・ゾフレス 原作 コーマック・マッカーシー
出演 トミー・リー・ジョーンズ、ハビエル・バルデム、ジョシュ・ブローリン、ウッディ・ハレルソン
ケリー・マクドナルド、ギャレット・ディラハント、テス・ハーバー、バリー・コービン、ロジャー・ボイス
ベス・グラント、アナ・リーダー

2008年3月15日(土)より 全国ロードショウ
オフィシャルサイト http://www.nocountry.jp/


 第80回アカデミー賞主要4部門を受賞し、圧倒的なクオリティの高さを証明したスタイリッシュ・スリラー・サスペンス『ノーカントリー』。作品賞の他、「ハンニバル・レクター以来の、映画史上最悪の悪役。 主演のトミー・リー・ジョーンズをしのぐほどのインパクト!」と評され、本年度のあらゆる映画賞を総なめにしているハビエル・バルデムがアカデミー賞助演男優賞を受賞。コーエン兄弟も監督賞と脚本賞を受賞している。デビュー作品の『ブラッド・シンプル』から『ファーゴ』等に共通するノワール的要素を含みながら、本作では常にこだわりぬく音楽をあえて抑制。静寂が引き起こす緊迫感と恐怖を観ている者の内側から引き出すという新たな挑戦を試みている。更に本作に深みを与えているのが、個性派俳優たちによる渾身の演技だ。全体の語り手として物語の中心に位置するベル保安官には、『逃亡者』でアカデミー賞助演男優賞を受賞したトミー・リー・ジョーンズ。冷酷な殺し屋には『海を飛ぶ夢』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたスペインを代表する俳優ハビエル・バルデム。金を奪い追いかけられる運命を選んだ男には、本作をきっかけに今注目を集めている、ジョシュ・ブローリン…といったアクの強い俳優たちの競演が最大の見物である。アメリカ文学をリードし続けているコーマック・マッカーシーの多重構造的な現代の物語でありながら、本格的な犯罪小説である原作「血と暴力の国」が、コーエン兄弟の手により印象的な映像と歯切れのいい会話へと変貌を遂げ、強烈な説得力をもつ作品となった。


※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
 狩りをしていたルウェリン・モス(ジョシュ・ブローリン)は、偶然死体の山に囲まれたピックアップ・トラックを発見する。そのトラックの荷台には大量のヘロインと 200万ドルという大金が残されていた。その金を奪ってしまったモスは命を狙われることになる。身の危険を感じたモスは愛する妻カーラ・ジーン(ケリー・マクドナルド)に実家に帰るように命じ、自分は金の入ったカバンと共に逃亡の旅に出る。消えた金を取り戻すために雇われた殺し屋アントン・シガー(ハビエル・バルデム)は、盗まれた金に取り付けられていた発信機からモスの行方を追いはじめる。翌朝、現場検証にやってきたエド・トム・ベル保安官(トミー・リー・ジョーンズ)は、そこに残されたモスのトラックと、死体の山を見て、モスが事件に巻き込まれたのではないかと考える。ベルはモスの身柄を保護するため、そして殺し屋を捕らえるために彼らの行方を追う。しかし、殺し屋シガーはモスの居場所をかぎつけ、何とか金を持って部屋から脱出し、メキシコへと逃げ倒れこむ。病院のベッドで目を覚ましたモスの元にカーソン・ウェルズ(ウッディ・ハレルソン)と名乗る別の殺し屋が座っていた。ウェルズは、モスに取引を申し出るが、その後シガーに殺されてしまう。金を奪い殺人鬼から逃げおおせる自信があるモス。一方、自分から逃げられる者はいないという自信を持つシガー。はたして、それぞれの思惑と自信が絡み合いながら、男たちは意外なクライマックスを迎えることになる。


 遂にアカデミー作品賞を受賞したコーエン兄弟(受賞レースの常連でありながら、なかなか果たせなかった二人が、もっとイイ作品があったんだけど…と皮肉なコメントが印象的だった)の最新作。そのシチュエーションと設定から二人が手掛けた不朽の名作『ファーゴ』を想起した人は少なくないだろう。「こんなはずじゃなかったのに…」と誰もが悔やんだ事がある苦い経験。本作に出てくる人物は皆その言葉通りの事態に陥る。どう考えたってヤバい金を持ち逃げした主人公(荒野で朽ちたマフィア同士の殺し合ったとしか思えない場所に残された200万ドルを持ってくるなんてマヌケとしか言いようがない)は、当然、殺し屋に追いかけられる羽目になる。本人は、危機的状況を何とか切り抜けられると思っている愚かしさ…いや、本来なら恐れるはずの奥さんですら夫が殺されるはずがないと信じている。『ファーゴ』もそうだったが映画に出てくる人物は、なぜか自身を過大評価している。コーエン兄弟は極端にデフォルメして愚かな人間たちを描いているが、実は、そんな愚かしさって、誰もが持っているものだ。痛い思い(痛いどころか殺されてしまう)をするまで気付かない滑稽さ…。本作にはヒーロー然とした人間は一切出てこない。ベトナム帰還兵の主人公モス(ジョシュ・ブローリンのハマリ役!最高傑作だ!)は、初めての大金に生涯最初で最後のチャンスと思い冷静な判断が出来なくなった、“時代に取り残された田舎の負け犬”だ。彼を追う殺し屋シガー(スティーブ・ブシェミ以来の強烈なキャラクター登場!)ですら、最後に取り返しのつかない失敗をする。
 登場人物がことごとく死んでしまう救いようのない内容を笑いに転じられるコーエン兄弟の才能に改めて感服。トミー・リー・ジョーンズ演じる年老いた保安官が全ての出来事を見つめ、映画の語り辺となって物語を進行してゆく構成は『セブン』でモーガン・フリーマン演じる定年間近の刑事に通じるものがある。特に、彼のナレーションにある自分が経験してきた犯罪に関する下りは『セブン』を彷彿とさせる。両者共に現代社会における異常なまでに多発する犯罪と自分の無力さに憤りを感じている。原題の『』とは、最後に自ら引退する保安官ともベトナム戦争以来西部の片田舎で時が止まったまま人生を送るモスとも受け止められる。本作が、一番コーエン兄弟らしい映画だと思えるのは、唐突なエンディング。全てを諦めて、引退…と言うよりも世捨て人になったと表現した方が正しい…した保安官の虚ろな表情こそ、この映画の着地点なのだ。

「座れと言ったか?」「イスは座るものだ」ウッディ・ハレルソン演じる殺し屋の登場シーン。何も言わずに、イスに座ろうとした彼を嗜める雇い主に返すセリフ。物語に関係ないが、笑えるので印象に残った。

 

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